建物評価と市場価値 ~ 積算価格は赤札セールの目安? Vol.3
2021.04.01
VOL.03 積算価格と市場価格
最近特に思うのであるが、積算価格とは一体何であるのか解らなくなるのである。
道北のある町の建物及びその敷地が、昨年の10月に売買された。
この土地は幹線に面する約500㎡の長方形の角地で、この上にRC造の築約40年の診療所兼居宅約500㎡がある。
建物は良く手入れされており、空家期間も2年弱と、利用上の問題はないとのことであった。
この建物の固定資産税評価額は約1,300万円、土地は約600万円で、固定資産評価額の合計は約1,900万円である。
この土地・建物は2年程前から400万円で売りに出されていたが、昨年春に 200万円に値下げした。
それでも売れないため、秋に100万円に値下げしてやっと売却できたということであった。
積算価格的にいえば、多分1,000万円は下らないと思うが、需要が全くないので捨て値になったようである。
ここで読者は多分、更地処分すべきと考えるのであろうが、残念ながら取り壊し費用は限りなく土地代に近く、そういう意味では100万円という価格も説得力がある。
しかし十分に使える建物を前に、いくら需要がないといっても取り壊し最有効使用とはなかなか言えない。
地価水準が低い地域にあるRC造の特殊で汎用性のない建物は、経済的残存耐用年数が残っていても需要はほとんどなく、また取り壊しても土地代を上回り、取り壊し費用の回収もできないので、売買は成立せず、未利用のまま長期間放置され、廃屋と化す。
固定資産税評価額1,300万円の建物を、時価ゼロとする市場の実態を考えると、積算価格は決算セールの赤札前の価格としての意味合いしかないことになる。
果たしてそれでいいのか、積算価格と市場の実情との折り合いをどうつけるのか。
それとも積算価格以外の他の評価方法を考えるべきなのか、悩みは尽きない。
最近特に思うのであるが、積算価格とは一体何であるのか解らなくなるのである。
道北のある町の建物及びその敷地が、昨年の10月に売買された。
この土地は幹線に面する約500㎡の長方形の角地で、この上にRC造の築約40年の診療所兼居宅約500㎡がある。
建物は良く手入れされており、空家期間も2年弱と、利用上の問題はないとのことであった。
この建物の固定資産税評価額は約1,300万円、土地は約600万円で、固定資産評価額の合計は約1,900万円である。
この土地・建物は2年程前から400万円で売りに出されていたが、昨年春に 200万円に値下げした。
それでも売れないため、秋に100万円に値下げしてやっと売却できたということであった。
積算価格的にいえば、多分1,000万円は下らないと思うが、需要が全くないので捨て値になったようである。
ここで読者は多分、更地処分すべきと考えるのであろうが、残念ながら取り壊し費用は限りなく土地代に近く、そういう意味では100万円という価格も説得力がある。
しかし十分に使える建物を前に、いくら需要がないといっても取り壊し最有効使用とはなかなか言えない。
地価水準が低い地域にあるRC造の特殊で汎用性のない建物は、経済的残存耐用年数が残っていても需要はほとんどなく、また取り壊しても土地代を上回り、取り壊し費用の回収もできないので、売買は成立せず、未利用のまま長期間放置され、廃屋と化す。
固定資産税評価額1,300万円の建物を、時価ゼロとする市場の実態を考えると、積算価格は決算セールの赤札前の価格としての意味合いしかないことになる。
果たしてそれでいいのか、積算価格と市場の実情との折り合いをどうつけるのか。
それとも積算価格以外の他の評価方法を考えるべきなのか、悩みは尽きない。
(2010年2月 Evaluation no.36掲載/「建物評価と市場価値 ― 積算価格は赤札セールの目安?」)
建物評価と市場価値 ~ 積算価格は赤札セールの目安? Vol.2
2021.03.25
VOL.02 中古建物の評価とその問題
以上の問題はさておくこととして、現実に評価せざるを得ない中古建物の評価について考える。
中古建物は、新築建物の想定とは異なり、問題となるのは再調達原価の把握と経済的耐用年数の判定である。
設計図や仕様書があれば、建築士の意見を聞いたり、建築時の取得原価を調べたりしてある程度把握が可能である。
これらの資料がなければ外観判定に頼る他はない。
しかし壁の中は見えないし、設備の中も壁の外に出ているもの以外は見ることはできない。
結局類似建物との比較による他はない。
尚、大手ゼネコンでも営業段階における建築費の把握は、類似建物比準とのことである。
それでも実際建築費との誤差は10%~20%程度とのことであった。
経済的耐用年数については、割り切って機械的に判定している。
しかし現実の建物は維持・管理の状態によっては極端に異なり、法的耐用年数に満たないうちにガタガタになっている建物も見られる。
このような建物でも、経済的耐用年数はそれ以外の建物と一緒で、状態が悪いのは観察減価で対応すべきなのか、それともそもそも経済的耐用年数が短いと考えるべきなのか、悩みは尽きない。
設備、特に給排水設備については、長期間空家(2~3年)にしておくと経済的耐用年数の期間内であっても全面更新が必要となることがあるが、外観調査だけではなかなか判別できない。
中古建物には中古建物独自の問題があり、経験を積まないと割り切りに悩むが、いくら経験を積んでも自信は持てそうにもない。
以上の問題はさておくこととして、現実に評価せざるを得ない中古建物の評価について考える。
中古建物は、新築建物の想定とは異なり、問題となるのは再調達原価の把握と経済的耐用年数の判定である。
設計図や仕様書があれば、建築士の意見を聞いたり、建築時の取得原価を調べたりしてある程度把握が可能である。
これらの資料がなければ外観判定に頼る他はない。
しかし壁の中は見えないし、設備の中も壁の外に出ているもの以外は見ることはできない。
結局類似建物との比較による他はない。
尚、大手ゼネコンでも営業段階における建築費の把握は、類似建物比準とのことである。
それでも実際建築費との誤差は10%~20%程度とのことであった。
経済的耐用年数については、割り切って機械的に判定している。
しかし現実の建物は維持・管理の状態によっては極端に異なり、法的耐用年数に満たないうちにガタガタになっている建物も見られる。
このような建物でも、経済的耐用年数はそれ以外の建物と一緒で、状態が悪いのは観察減価で対応すべきなのか、それともそもそも経済的耐用年数が短いと考えるべきなのか、悩みは尽きない。
設備、特に給排水設備については、長期間空家(2~3年)にしておくと経済的耐用年数の期間内であっても全面更新が必要となることがあるが、外観調査だけではなかなか判別できない。
中古建物には中古建物独自の問題があり、経験を積まないと割り切りに悩むが、いくら経験を積んでも自信は持てそうにもない。
建物評価と市場価値 ~ 積算価格は赤札セールの目安? ~ Vol.1
2021.03.18
VOL.01 更地評価と想定建物をめぐる問題
更地の評価を行う場合、当該更地の最有効使用が分譲マンション、賃貸用事務所ビル、共同住宅等の敷地と判定された場合は、当該土地に最有効使用の建物を想定して評価を行うことになる。
この場合、建築士でもない不動産鑑定士は、少なくとも3つの大きな問題に直面する。
1つ目は、都市計画法・建築基準法の制約の中で、どの位の建物が建築可能か(ボリュームチェック)どうかである。
素人的発想でいけば、近隣の建物と同程度と考えておけば大過はない。
しかし、標準的使用と最有効使用が異なると悩みは一挙に拡大する。
昨今はコンピュータによりボリュームチェックが可能となったが、それでもかなりの建築法規の知識が要求される。
各種の斜線制限・日影規制・大都市部では天空率も関係する。
能力不足を理由に白旗を揚げたいが、依頼者によっては断ることもできない。
かといって、建築士に想定建物の概算設計等を外注しようにも、それに見合った時間と鑑定報酬は期待できない。
仕方がないので恐る恐るそれらしきことを真似てみるが、自信は全くない。
当たらずとも遠からずとあきらめて挑戦しているが、どうせ他の不動産鑑定士も良く解っていないのだろうと勝手に憶測し、一人納得させているが、自信のないことこの上ない。
2つ目は、建築費の把握である。
最大ボリュームが把握できたとしても、建物自体の市場競争力の制約の中で、最小費用で最大利益が上げられるようにと考えると、構造・階層・間取・デザイン等について多角的な検討が必要となる。
しかし、一般の不動産鑑定士にはそのような知識も技術もないので、平均的な建物を想定するしかないが、市場が飽和状態の時には平均的な建物を想定しても結局売れもしないし借り手もいない建物を想定することになる。
売れるように、借り手が現れるようにするためには、平均的な建物の現状を分析し、平均的ではない市場競争力のある建物を建てることが必要となるが、残念ながら我々にはそのような能力はない。(ある人には失礼!)
平均的な建物でもドンドン売れた時代はとうに過ぎ去った。
賃貸物件にしても同じである。
同じ地域にある同規模・同時期の建物であっても、デザイン・機能性・賃料等が市場にマッチしていなければ市場性はない。
更地の評価が楽だった時代は終わりつつある。
3つ目は、前記の問題とも関連するが、躯体・設備の割合と経済的耐用年数の把握である。
今回の地価公示では仕上割合も入ったので、想定は更に大変となった。
躯体・仕上・設備の割合は、想定の仕方によっても変化する。
分譲価格の設定や賃料の設定如何によってもこの割合は変化する。
建築ボリューム・建築予算・分譲価格・設定賃料の最適組み合わせを求めてシミュレーションしなければ、前記3つの問題はクリアできない。
しかし時間と費用の大きな制約の中で、我々は一体どこまでやらなければいけないのであろうか?
考えれば考える程解らなくなってしまう。
このようなことを我々に期待する方がどうかしていると思うのであるが、世間の人は不動産鑑定士は何でもできるスーパーマンと思っているようで、期待は大きい。
以前にも書いたことがあるが、これだけ複雑になってくると、鑑定士も部門毎に登録する方がいいのかなと思わざるを得ない。
筆者は精々木造鑑定士が関の山であると思っている。
ところで、経済的耐用年数なるものをどうするべきか、これも問題である。
使い捨て文化からの脱却を目指して 200年住宅なるものも提言されているが、 200年住宅の経済的耐用年数は一体何年になるのであろうか。
筆者が現役の時に 200年住宅を評価することはないので対岸の火事と決め込んで傍観しているが、若い人達は大変だろうと思っている。
話がずれたが、木造建物の耐用年数も千差万別である。
リフォームされた新築そっくり住宅の経済的耐用年数は、新築と同じと考えて良いのだろうか。
鉄骨造・鉄筋コンクリート造の建物の経済的耐用年数は一体どう把握すればいいのだろうか。
現状は誰も解らないから、財務省令による耐用年数を根拠にして把握しているが、それでさえ科学的研究の成果なのかどうかは不明である。
設備の耐用年数は一般的に15年と判定しているが、40年も50年も経過している建物もあり、設備の耐用年数がはたして15年でいいのか、良く解らない。
設備の経済的耐用年数が15年だという科学的根拠はあるのだろうか。
あるのなら、誰か教えて欲しい。
いずれにしても、我々は3つの問題にあえぎながら評価を行っているが、足元を良く見つめると心許ない。
このような状況が改善・解決される時代が来るのか考えていたら、また年が明けてしまった。
更地の評価を行う場合、当該更地の最有効使用が分譲マンション、賃貸用事務所ビル、共同住宅等の敷地と判定された場合は、当該土地に最有効使用の建物を想定して評価を行うことになる。
この場合、建築士でもない不動産鑑定士は、少なくとも3つの大きな問題に直面する。
1つ目は、都市計画法・建築基準法の制約の中で、どの位の建物が建築可能か(ボリュームチェック)どうかである。
素人的発想でいけば、近隣の建物と同程度と考えておけば大過はない。
しかし、標準的使用と最有効使用が異なると悩みは一挙に拡大する。
昨今はコンピュータによりボリュームチェックが可能となったが、それでもかなりの建築法規の知識が要求される。
各種の斜線制限・日影規制・大都市部では天空率も関係する。
能力不足を理由に白旗を揚げたいが、依頼者によっては断ることもできない。
かといって、建築士に想定建物の概算設計等を外注しようにも、それに見合った時間と鑑定報酬は期待できない。
仕方がないので恐る恐るそれらしきことを真似てみるが、自信は全くない。
当たらずとも遠からずとあきらめて挑戦しているが、どうせ他の不動産鑑定士も良く解っていないのだろうと勝手に憶測し、一人納得させているが、自信のないことこの上ない。
2つ目は、建築費の把握である。
最大ボリュームが把握できたとしても、建物自体の市場競争力の制約の中で、最小費用で最大利益が上げられるようにと考えると、構造・階層・間取・デザイン等について多角的な検討が必要となる。
しかし、一般の不動産鑑定士にはそのような知識も技術もないので、平均的な建物を想定するしかないが、市場が飽和状態の時には平均的な建物を想定しても結局売れもしないし借り手もいない建物を想定することになる。
売れるように、借り手が現れるようにするためには、平均的な建物の現状を分析し、平均的ではない市場競争力のある建物を建てることが必要となるが、残念ながら我々にはそのような能力はない。(ある人には失礼!)
平均的な建物でもドンドン売れた時代はとうに過ぎ去った。
賃貸物件にしても同じである。
同じ地域にある同規模・同時期の建物であっても、デザイン・機能性・賃料等が市場にマッチしていなければ市場性はない。
更地の評価が楽だった時代は終わりつつある。
3つ目は、前記の問題とも関連するが、躯体・設備の割合と経済的耐用年数の把握である。
今回の地価公示では仕上割合も入ったので、想定は更に大変となった。
躯体・仕上・設備の割合は、想定の仕方によっても変化する。
分譲価格の設定や賃料の設定如何によってもこの割合は変化する。
建築ボリューム・建築予算・分譲価格・設定賃料の最適組み合わせを求めてシミュレーションしなければ、前記3つの問題はクリアできない。
しかし時間と費用の大きな制約の中で、我々は一体どこまでやらなければいけないのであろうか?
考えれば考える程解らなくなってしまう。
このようなことを我々に期待する方がどうかしていると思うのであるが、世間の人は不動産鑑定士は何でもできるスーパーマンと思っているようで、期待は大きい。
以前にも書いたことがあるが、これだけ複雑になってくると、鑑定士も部門毎に登録する方がいいのかなと思わざるを得ない。
筆者は精々木造鑑定士が関の山であると思っている。
ところで、経済的耐用年数なるものをどうするべきか、これも問題である。
使い捨て文化からの脱却を目指して 200年住宅なるものも提言されているが、 200年住宅の経済的耐用年数は一体何年になるのであろうか。
筆者が現役の時に 200年住宅を評価することはないので対岸の火事と決め込んで傍観しているが、若い人達は大変だろうと思っている。
話がずれたが、木造建物の耐用年数も千差万別である。
リフォームされた新築そっくり住宅の経済的耐用年数は、新築と同じと考えて良いのだろうか。
鉄骨造・鉄筋コンクリート造の建物の経済的耐用年数は一体どう把握すればいいのだろうか。
現状は誰も解らないから、財務省令による耐用年数を根拠にして把握しているが、それでさえ科学的研究の成果なのかどうかは不明である。
設備の耐用年数は一般的に15年と判定しているが、40年も50年も経過している建物もあり、設備の耐用年数がはたして15年でいいのか、良く解らない。
設備の経済的耐用年数が15年だという科学的根拠はあるのだろうか。
あるのなら、誰か教えて欲しい。
いずれにしても、我々は3つの問題にあえぎながら評価を行っているが、足元を良く見つめると心許ない。
このような状況が改善・解決される時代が来るのか考えていたら、また年が明けてしまった。