不動産調査と役所の壁(法治国家日本の不思議) ~ Vol.2
2021.05.20
VOL.02 法務局における調査 ~ 今は昔 

 役所調査に当たっては、対象物件の確認・確定に必要な書類の他、価格形成要因に関する調査も欠かせない。

 評価依頼が来たら、まずは法務局における調査である。

 今は、建物図面・分筆図を除いて、法14条地図と称される所謂公図の閲覧や出力がインターネットでできるようになったので、随分楽になったものである。

 最近不動産鑑定士になった人は知らないだろうが、昔は法務局で図面のコピーもできなかったのである。
 当時の不動産登記法によれば、図面の閲覧はできるとしかされていない為、複写はできないということであった。
 当然、図面の写しの交付の請求もできなかったのである。
 したがって、対象不動産である土地・建物の図面は、トレース用紙(半透明の用紙)を重ね、定規を使ってトレースするしかなかったのである。
 駆け出しの鑑定士の最初の仕事は、実は法務局における図面のトレースであったのである。
 如何に早く・正確に・綺麗にトレース図面を作成することができるかが試されたのである。(アァ懐かしい!!)

 地価公示で取引事例を確認する為、それこそ朝から晩まで法務局で 100枚単位の図面のトレースをしたことを思い出す。
 不器用な人は、図面のトレースに音を上げていたようである。

 いずれにしても、この貴重な経験から、要領良くサッと、しかも手数料を払っていない他の土地の分筆図も、注意されないよう気を付けて素早くトレースすることができるようになったのである。
 特に、地方の法務局で調査する場合は、時間が限られるのでまさしく時間との勝負であった。

 今は、法改正により、図面の写しの交付請求もできるようになったので、随分と楽になった反面、大量の図面が綴じられた簿冊から、地番順に綴じられているとはいえ、目的とする土地・建物の図面を素早く捜し出し、場合によってはその周辺も含めてトレースするという職人的な技を習得するというチャンスはなくなった。

 もっとも、若手の不動産鑑定士に言わせれば、車社会の現在、駕籠かきがどうしたのっていう程度の話にしかならないと思われる。

 しかし、実は大量の分筆図・公図等を見るというのは、結構勉強になったのである。

 筆者もその経験があったので、技術屋でもないのに1000haにも及ぶ開発地区の地番図を作成することができたと思っている。

 この地番図を作る為に、2ヶ月ばかり法務局に通い、明治時代に作製された図面やら大正時代に作製された北海道独特の植民区画図等、実に色々な図面に出会ったのである。

 図面の精度の変遷や、登記簿との不突合、特に幽霊地、つまり登記はあるが地番図を照合しても図面上に特定できない土地や、脱落地といわれる地番の付されていない土地、分合筆図を集成すると形が変わる土地の存在等、実に貴重な体験をさせてもらった。

 そのお陰で図面の取扱いにも慣れさせてもらったが、コピーにより簡単に図面が手に入るようになった現在、図面について深く考える機会が少なくなっているような気がする。
2021.05.20 10:40 | 固定リンク | 鑑定雑感
不動産調査と役所の壁(法治国家日本の不思議) ~ Vol.1
2021.05.13
VOL.01 不動産調査について

鑑定評価に当たっては、対象物件の確認・確定が大前提となる。


ところで、都市部における大型物件の評価依頼については、通常依頼者の方で対象物件の確認・確定に必要な資料を用意してくれることが多い。

余程のことがない限り、鑑定士の方で自力で全ての調査をすることはない。

与えられた資料を見て、ハッキリしない点については、場合によっては評価条件を付して評価することが多いので、確認・確定はある意味で気が楽である。

この場合、基本的には鑑定評価書という名の書類の作成業務に近いものとなり、物件調査のミスはほとんど問題にならない。(依頼者が問題にしない。)


しかし、依頼者が一般市民である場合、当然には確定・確認に必要な資料は出てこない。

特に、競売評価の場合は、所有者・債務者が気持ち良く調査に協力してくれることは少ない。


また、中にはどうしても家を手放したくないという理由から、とにかく非協力を貫く人もいる。

となると、評価人たる不動産鑑定士は、これまでの知識・経験をフル稼働させて、確定・確認に必要な資料を収集しなければならないことになる。

そういう意味では、一般鑑定と競売評価では、調査に対するスタンスや責任の度合いは大きく異なることになる。

前置きが長くなったが、不動産調査に当たっては、役所調査は欠かせない。
2021.05.13 10:39 | 固定リンク | 鑑定雑感
ネットサーフィン鑑定 ~ 鑑定評価書作成業(?)の行方  Vol.5
2021.05.06
VOL.05 鑑定評価書作成業の行方 

物件の確認・確定等を行うための調査能力をあまり要しない一般鑑定評価は、鑑定評価書作成業としか言いようがないが、公共セクターが発注する鑑定評価は、物件の確定・確認に高度の調査能力を必要としないので、まさに鑑定評価書作成業の最たるものという他はなく、競争入札もやむを得ないのかもしれない。

まして、買収予定価格も暗黙のうちにある水準にまとまっていることが多いので、それに合わせて評価書をもっともらしく作成するだけである。

そこで問われるのは、専門職業家としての知識・経験ではない。

つまり、人格見識に優れた不動産鑑定士は必要とされてはいない。
ただ安く評価書を作成する不動産鑑定士だけが必要とされているだけである。

したがって、ネットサーフィンにより安直に評価書を作成する風潮は、今後増大しても減少することはないのかもしれない。

そのうちネットサービスにより評価書の作成を代行してくれる業者が出現するであろうと密かに期待している。

価格さえ決まれば、評価書の体裁だけであるから、評価書作成支援センター等の機関が出来れば、慣れない手つきで評価書のデザインや構成を考えるよりましである。

一括して代行作成してくれる機関ができれば、筆者も依頼したいと思っている。

そうなれば、鑑定事務所としての設備投資は最低限で済ませることができ、鑑定料のダンピングができるかもしれない。

仄聞するところによれば、ダイナミックDCFによる収益価格の計算をやってくれる業者がいるらしい。

ダイナミックDCFのソフトは、安くても60~80万円位はするので、個人事務所では対応できない。

計算業務が高度化すれば、鑑定の精度が向上したと錯覚する依頼者は多い。

鑑定評価が単なる計算業務なら、不動産鑑定士は不用である。
大学の数学科が最も相応しいことになる。

しかし、リアルな世界の不動産は、今のところ国土情報のインフラ整備の著しい遅れもあって、単なる計算だけではどうにもならないのも事実である。

今一度、故櫛田先生の言葉を噛みしめて、鑑定評価は専門家の意見であり判断であることを、声を大にして言うべき時であると考える。

それと同時に、不動産鑑定評価に関する基本的考察の倫理的要請が示すように、

「高度の知識と判断力が渾然とした有機的統一体を形成してこそ、適確な鑑定評価が可能となるのであるから、不断の勉強と鍛錬とによってこれを体得し、もって鑑定評価の進歩改善に努力すること」

という言葉の意味を重く受け止めたいと思うのである。

そして鍛錬とは、宮本武蔵の五輪書にあるとおり、『千日の稽古をもって鍛とし、万日の稽古をもって錬となす』という自己自身に対する厳しさを肝に銘じていたいと願っている。



(2010年5月 Evaluation no.37掲載/「ネットサーフィン鑑定-鑑定評価書作成業(?)の行方」)

2021.05.06 09:50 | 固定リンク | 鑑定雑感

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