担保執行法制の改正と競売の今後の動向 ~ Vol.1
2024.11.28
VOL.01 担保執行法制の改正の経緯

 担保執行法制の改正については既に周知のことと思われるが、ここであらためて改正に至る経緯とその後の状況並びに今後の動向について検討してみたい。


 経済戦略会議は、平成11年2月26日付の「日本経済再生への戦略」(答申)の中で、最低売却価額制度の廃止、短期賃借権保護の廃止、競売物件の内覧等を提言した。

その後各界を巻き込んで激論が交されたが、平成14年3月には司法制度改革の一環として最低売却価額制度の廃止、短期賃借権保護の廃止、内覧実施が政策課題として決定された。

 この間、評価人候補者のほとんどを占める不動産鑑定士及びその全国団体である(社)日本不動産鑑定協会は、全くと言って良い程関心を持っていなかった。

 かく言う筆者もその一人で、全くお恥ずかしい話である。

個人的には平成14年秋頃からこれらの問題の渦中に引き込まれてから司法制度改革の嵐を肌に感じ、評価人としての危機感を持ったのは事実である。

司法競売の利点は多々あるが、小泉改革の大合唱の前に、結局は経済戦略会議の提言どおりに改革は実現した。









2024.11.28 09:37 | 固定リンク | 鑑定雑感
鑑定評価業務の法律的性質について ~ Vol.4
2024.11.21
VOL.04 弁護士業務と鑑定評価業務

 弁護士業務を入札にすべしという声は、寡聞にして知らない。

 これは、芸術家と同様に発注者が事前的にも事後的にも弁護士業務の内容をチェックすることができないからである。

 発注者にチェック能力があるのなら、弁護士は不要である。
 一般的に弁護士業務は請負ではなく委任と解されている。
 発注者ができるのは弁護士の人選のみで、委任行為の良し悪しを委託金額との関連で判断することはできない。

 したがって、発注者は弁護士が法令等に違反していない限り、全てを受け入れなければならないことになる。
 たとえ思わしくない結果に終ったとしても、請負契約のように瑕疵担保責任を追及することはできない。

 だがしかし、本当に弁護士業務は入札になじまないのであろうか。

 弁護士業務は、鑑定評価業務と異なり、依頼者に忠実であれば良く、時によっては黒でも灰色ないし白色と主張しなければならない。
 弁護士業務が社会正義に照らして客観的・公正・中立に行わなければならないのなら、犯罪者の弁護を引き受けることはないであろうし、裁判官も検察も不用ということになる。 

 他方、鑑定評価業務は、依頼者に忠実になることはできない。
 求められるのは社会的にみて客観的かつ公正・中立な立場における価値判断である。

 したがって、鑑定評価業務の内容は弁護士業務の内容よりはるかに委任に近い法的性質を有していると考えられる。

 弁護士業務の本質が委任で請負契約になじまないのなら、より客観的・公正・中立な立場での判断を求められる鑑定評価業務が請負契約になじむと考えるのは笑止である。

 鑑定評価業務が定性・定量的で、事前・事後のチェックが可能なら、単なる計算業務となる。
 鑑定評価は単なる計算業務ではない。

 評価者によって結果(鑑定評価額)は異なることもあるし、請負金額によって結果(鑑定評価額)の良し悪しを判断することもできない。
 資格があれば全て同じ結果が期待できるのなら、名医も名弁護士もいないことになる。

 資格は業務の最低限の資質を要求するものであり、ベストを満たしている訳ではない以上資格者によってバラツキが出るのはやむを得ないことである。

 いずれにしても、鑑定評価業務の本質は依頼者に代って客観的・公正・中立な立場で価値判断を行うものであり、限りなく委任に近い性質を有していることから、請負契約になじまないものと考えるものである。

(2006年11月/「鑑定評価業務の法律的性質について」)

2024.11.21 10:07 | 固定リンク | 鑑定雑感
鑑定評価業務の法律的性質について ~ Vol.3
2024.11.14
VOL.03 司法書士・行政書士・社会保険労務士等の士業と入札について

 個人的見解ではあるが、これらの業務は専門職業家としての公正・中立な価値判断を業務としておらず、通常は行政庁に提出する書類の作成を主としている為、業務の質量は決まっており、その内容も法定されているため、事後のチェックは可能である。

 とすれば、これらの業務は典型的な請負業務と考えることができる。
 鑑定評価業務に比較すると、はるかに入札になじむ性質を有していると考えられる。

 にもかかわらず、これらの業務の一括発注に対して広く入札が行われていないのは何故だろうか。

 それは、内容のチェックができない本人に代って書類を作成するという行為が、委任行為に近いためと思われる。

 つまり、依頼者本人が内容のチェックや価値判断をすることができないことについて、他人にある行為を依頼するという行為は、請負ではなく委任という行為に当ると考えられるからである。

 不動産に対する価値判断を第三者に委ねるという行為(鑑定評価業務)は、その本質において委任行為であるということに疑いはないものと考える。
2024.11.14 15:28 | 固定リンク | 鑑定雑感
鑑定評価業務の法律的性質について ~ Vol.2
2024.11.07
VOL.02 典型的な請負契約について

 請負契約の典型例として、建築・土木工事等が挙げられる。通常建築工事・土木工事を競争入札で発注する場合の前提条件を検討してみる。

 たとえば、道路の延長100mの工事を入札で決めるということはできない。
 何故なら、道路の幅員・構造が決まっていないからである。

 では、道路の幅員・構造が決まっていたら工事金額を入札で決めることができるのであろうか。

 やはり入札で決めることはできない。

 つまり、幅員・構造が決まっていても、どういう材質の材料をどの位使用するか等をこと細かく決めていないからである。
 これらを決めておかなければ、出来上がった道路の良し悪しを請負金額だけで判断することはできない。
 路盤上の厚さ・使用する砂利等の規格・使用量・舗装の種類・舗装厚等、こと細かく決めておかなければ入札希望者各自が入札金額によって思い思いに道路工事の程度を想定し入札することになるため、発注者の希望どおりのものができる保証がないからである。

 請負契約を入札で決めようとするなら、どの業者が落札したとしても同じものができるという前提条件が必要となる。
したがって、工事入札等の場合は、発注者が事前に設計書・仕様書を示さなければならない。

 つまり、請負契約によって何かを行う場合は、原則として業務の質量のチェックが事前・事後的にできることが前提条件となる。

 請負業務の質量の事前事後のチェックができない鑑定評価業務を請負契約で入札・発注しようとするならば、建設工事等と同様に設計書・仕様書が必要となる。

 ところが、実際に示されている仕様書は、大雑把すぎてとても仕様書とは言えない。

 これでは法に示されている最低限しか記載のない、わずか数ページの鑑定評価書から数十ページの鑑定評価書、更には記載内容についても千差万別となる可能性は高い。

 それにもかかわらず、入札金額だけでどうして判断できるのか理解できない。

 仮に、どうしても入札にするというのなら、仕様書は報告書の様式・記載内容・1ページ当りの字数・調査範囲・最低ページ量等、こと細かく規程することが必要となる。その良い例が地価公示業務における仕様書である。
 
 仕様書を作ることができる発注者は、業務の全てを掌握していることになり、そうでなければ結果をチェックすることはできない。

 しかし、専門家の業務を事後的に素人がチェックできるのなら、専門職業家は不要である。

 そうであるが故にこの種の専門職業家の仕事については高度の試験を課し、合格した人のみに独占的に行わせているのである。

 尚、専門職業家の仕事の中でも特に創造性の高い業務である芸術的な業務、たとえば、公園や建物のデザイン等の業務は請負契約になじまない。

 何故なら、このような業務については発注者側において事前に設計図書の作成や仕様書の作成ができないからである。

 つまり、デザインという業務は無形であるからであり、発注者ができるのはどのようなデザイナーを選ぶかということでしかない。

 もっと解り易く言えば、画家が描いた絵を入札で売却することは可能であるが、画家を入札で決めることはできないということである。
2024.11.07 17:01 | 固定リンク | 鑑定雑感
鑑定評価業務の法律的性質について ~ Vol.1
2024.11.01
VOL.01 法律的性質

 鑑定評価業務は、法律的には有償双務契約である。

 ところで、民法に定義する有償双務契約の典型例をみると、次のとおりである。

 1)売買
 2)消費賃借
 3)賃貸借
 4)雇用
 5)請負
 6)委任

鑑定評価業務を受託する行為というのは、民法上のどれに当るのであろうか。

 昨今、国や大手企業の一部が入札により業務を発注しているのは、鑑定評価業務の性質が請負契約であるという認識に立っているからと思われる。
2024.11.01 12:52 | 固定リンク | 鑑定雑感

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