士・業同一性障害を考える ~ Vol.4
2022.07.28
VOL.04 訴訟鑑定と不動産の鑑定評価に関する法律

財産分与や交換価値、地代・家賃の増減額等、訴訟分野において不動産鑑定士が活用されているのは、喜ばしいことである。

 しかし、裁判所から依頼された鑑定人、不動産鑑定士としては、色々な問題があると考える。

 これは、司法競売評価における評価人も同じである。

 まず、鑑定人として依頼されるのは個人であり、業者ではない。

 鑑定人として宣誓するのは、あくまでも個人であり、業者ではない。

 しかし、鑑定評価書の発行権限は業者にある。

 業者の管理・監督を離れ、資格者個人が一人で裁判所に行って業務を受託することはあり得ない。

 訴訟鑑定も、不動産の鑑定評価に関する法律の適用対象になるとすると、資格者個人名で評価書や意見書等を提出することは許されない。

 一方、裁判所からすると、業者に鑑定を依頼しているという意識はない。
 鑑定人はあくまでも自然人たる個人である。

 また、実際に公認会計士個人名による不動産鑑定評価書も見たことがあるが、個人として依頼されたら、業法違反だから受託できないと拒絶すべきなのであろうか。
 不動産鑑定士以外の資格者や専門家個人に鑑定意見を求めているケースは相当数見られるが、業者として鑑定意見を提出したケースは寡聞にして知らない。

 とすると、民事訴訟法上、鑑定人として意見を述べたり鑑定意見書を提出することは、不動産の鑑定評価に関する法律との関係上、どのように解すべきなのか、今もって良く分からない。

 訴訟鑑定における鑑定評価も、ガイドラインに沿ったものでなければならないとすると、鑑定人に選任された不動産鑑定士は、業者の代表者を通じて裁判所に対して業務の依頼書・確認書の取り交しを要求しなければならないことになる。

 また、監督者である国交省は、裁判所の選任した鑑定人たる不動産鑑定士に対し、司法判断とは関係なく指導・監督することになるのであろうか。

 更に踏み込むと、裁判所の容認した鑑定結果に対し、原告又は被告は、国交省に対しその当・不当を申立てすることができるのであろうか。

 不動産の鑑定評価に関する法律は、民事訴訟法の特別法とするなら、民事訴訟法とは無関係に鑑定結果の当・不当を国交省や連合会が決することができることになるが、そうであれば裁判所の選任による鑑定は、意味をなさないことになる。

 仮に鑑定結果を採用するとしても、あらかじめ国交省や連合会の審査を経た後でなければ採用できず、またそうしなければ鑑定に基づいた判決が意味をなさないことにもなりかねない。

 訴訟鑑定における鑑定人とは、鑑定の手続きによって取り調べを受け、意見を供述する第三者ということになるが、鑑定人業法という法律がないので、この場合の第三者に法人が含まれるのか、含まれるとすれば、選任後に法人代表者が変更された場合は、変更後の代表者が鑑定人になるのか、疑問は尽きない。

 いずれにしても、士法なのか業者法なのかの性格が必ずしも判然としないため、議論が混乱しているようにも思われる。
2022.07.28 11:28 | 固定リンク | 鑑定雑感
士・業同一性障害を考える ~ Vol.3
2022.07.21
VOL.03 不動産鑑定評価と鑑定評価書発行の権限

 鑑定評価は不動産鑑定士のみが行えるが、業者登録しなければ、評価書の発行ができない。

 したがって、評価書の発行権限は、業者の代表者にあることになる。

 ところで、資格者個人の意見と判断を表明した評価書の取扱いの最終権限は業者の代表者となるが、国土法施行令第9条の地価調査や固定資産評価基準における標準宅地については、不動産鑑定士の鑑定評価を求め・・・と規定されており、業者の発行する鑑定評価書という文言は見当たらない。
 
 地価公示法では、不動産の鑑定評価に関する法律の適用除外規定があるため、評価書の発行権限は、資格者個人にあることになる。

 しかし、それ以外の法律や固定資産評価については、特に除外規定がないので、同法の適用対象となる。

 前記の地価調査は、除外規定がないにも関わらず、長らく個人名で評価書を発行してきた経緯がある。
 10年位前から(記憶が定かではないが)業者名を記載するようになったが、様式は地価公示と同じであるので、厳密にいうと法律的には問題があると考える。

 また、固定資産評価における標準宅地の鑑定評価も同法の適用対象となるので、ガイドラインに完全には準拠していない現行様式は、問題になると思われる。

 相続税評価における標準宅地の鑑定評価書の様式も、同じ問題を抱えている。

 仮に、一般からの依頼に対し、総務省や国税の標準様式を使用して評価書を発行したら、一体どういう問題が生じるのであろうか。

 これらの様式を利用した評価書の発行は一切認めないという根拠規定があるのかどうか分からないが、他の省庁が示した様式は、著作権が国にあるので使用してはならないということになるのかなとも考えられる。

 いずれにしても、不動産鑑定士という言葉が独り歩きしているため、不動産鑑定士は士業と誤解しているケースが多く見られる。
 
 事実、他の士業団体の人に、不動産鑑定士は業者法内の資格者であり、宅地建物取引士と同じですと言ったら驚いていたことを思い出すのである。

 ある時は士業、ある時は業者と立場を使い分け?、あるいは分からないため、発注者からは業者として扱われ、問題が起きると個人責任が問題にされる。

 個人業者は、業者イコール資格者個人のため、特に区別ができないでいる。

 そのため、問題が起きると余計に混乱することになる。
2022.07.21 10:20 | 固定リンク | 鑑定雑感
士・業同一性障害を考える ~ Vol.2
2022.07.13
VOL.02 不動産の鑑定評価に関する法律を考える
 
一般的に、業者を規制する法律は○○業法(業者法)、資格者を規制する法律は○○士法となっている。
 これに対し、不動産鑑定士を規制する法律は、「不動産の鑑定評価に関する法律」となっており、この名称からは、直ちに業者法なのか士法なのかを区別することは困難である。

 そこで、改めて不動産の鑑定評価に関する法律の構成を見ると、不動産鑑定士という資格者に関する規定が先、業者規定が後となっているが、宅地建物取引業法(以下宅建業法)では、業者規定が先、資格者規定が後と、順序が逆になっている。

 不動産鑑定業として行うためには、業者登録をしていなければならないとしているので、資格があるだけでは業として行うことができない。
 よって、この法律は明らかに業者法という他はない。

 この法律によれば、経営者に資格の有無を問わないので、金さえあれば誰でも有資格者を雇って不動産鑑定業を営むことが出来ることになるし、事実そのような会社は多く、宅建業と同じである。

 尚、業者要件の構成を見ると、宅建業法とほぼ同じである。

 業者登録は、大臣登録と知事登録の2通りで、宅建業法も大臣免許と知事免許の2通りである。

 前者は、何故か登録という用語を使用し、後者は免許という用語を使用している。

 尚、この法律上の登録の意味は、法律的には免許と同じと思われるが、○○士法では免許ではなく、登録という用語となっている。

 これは、○○士法では、資格者が代表者で、自らその業務を行わなければならず、試験合格によって業務を行う資格が備わるので、一般的行為の禁止の解除を意味する免許という用語を使用していないものと思われる。

 尚、業者登録(免許)の要件は、前2者とも同じであるが、前者と後者の大きな違いは、営業保証金と報酬と宅地建物取引士の人数要件くらいであろうか。

 不思議なことに、宅建業法上は、仲介手数料は大臣告示されているが、同じ業法でも鑑定業法の報酬規定は法定されていない。

 また、上場会社で従業員が数百人いても、不動産鑑定士が一人いれば、鑑定業はできることになっている。
 宅建業と同じく従業員5人に一人の割合の不動産鑑定士が必要とすれば、不動産鑑定業は産業に変革できたかもしれないと思っている。
2022.07.13 13:50 | 固定リンク | 鑑定雑感
士・業同一性障害を考える ~ Vol.1
2022.07.08
VOL.01 はじめに


昨今・GIDやLGBT(性同一性障害等)について色々と議論されており、これらに対する社会的関心は高まっている。

 個人的には、GID・LGBTではないが、差別する気持ちは全くないとしても、これらの人々が内面的に有する苦悩に対して十分理解できるかと問われれば、なかなか難しいと答えざるを得ない。

 一方、個人間の問題を離れ、対社会・対行政との関係をみると、理解できないと突き放すことは、相当の問題があるのも事実である。

それ故に、これらの問題がマスコミにも取り上げられ、問題の解決に向けての議論や行政的対応が少しずつではあるが進んでいることは、喜ばしいと思っている。

 我が国では、残念ながら他者と異なる人を排除しようとする圧力は、前記の問題の他にもあって、ありとあらゆる分野においてその圧力は高くなっており、日本のあり様が懸念される。

 ところで、何故このような話になったかというと、「不動産鑑定士」という言葉が独り歩きし、法律上、業者なのか、個人資格者なのかがよく区別されないまま、錯綜した認識や議論がまかり通り、あるべき姿が見えにくくなっていると感じたからである。

 これから先は個人の見解であり、間違い等があるかもしれないので、予めご容赦願うものである。
2022.07.08 09:00 | 固定リンク | 鑑定雑感

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