担保執行法制の改正と競売の今後の動向 ~ Vol.8
2025.02.06
VOL.08 不動産担保金融制度の相異

 アメリカでは、不動産金融はノンリコースが一般的であり、支払不能となった場合は抵当不動産を手放すだけで債権債務の関係は解消され、敗者復活は容易である。

 これに対し、日本の不動産は一部の物件にノンリコース型の担保金融がみられるものの、大半はリコース型で、更に悪名高い連帯保証が付帯されるため、意思に反して売却に付される債務者・所有者の抵抗は大きい。

 しかも、残債も追及されるため債務者・所有者の一家離散・自殺・夜逃等も多く見られ、敗者復活の道のりは暗くて遠い。

 競売制度は一国の不動産のあり様や歴史・文化・金融制度等と密接不可分と考えられる。

 特に地方圏ではその傾向が強く、ただ単に売れば良いという単純な構造にはなっていない。

 現在においても債務者・所有者に対する気配りは欠かせず、現場調査における執行官の気苦労は計り知れず、評価人も同様の気苦労を負っている。

 支払不能となったら競売でロクに調査もせず、適当にパッパッと売却できるのであれば苦労はない。

 競売制度と金融制度は車の両輪であることから、是非金融制度との関連についても研究してもらいたいものである。
2025.02.06 09:23 | 固定リンク | 鑑定雑感
担保執行法制の改正と競売の今後の動向 ~ Vol.7
2025.01.30
VOL.07 我が国特有の競売事情

 日本とアメリカでは不動産のあり方が決定的に異なっているため、民間競売になじまない面がある。

 つまり、日本では土地・建物は別個の不動産として取り扱われているため、抵当権設定のあり様は多様であり、抵当権者相互の調整(売却代金の配分等)が複雑となっている。

 一例を挙げると次のとおりである。
  ●土地・建物が同一所有者でもそれぞれの第1順位の抵当権者が異なっている。
  ●土地・建物が別々の所有者で、抵当権者が異なっている。
  ●土地・建物は同一所有者であるが、土地にしか抵当権が設定されていない。
  ●更地に抵当権が設定された後に建物が築造された。等

 これらの例をみるとおり、土地・建物を別個の不動産として取扱っているため、売却できたとしても売却代金を各抵当権者にどのように配分するかを決めるのは容易ではない。
 この問題を解決するために現在の競売評価では一括売却を前提としつつも、売却代金の割り振りのために、土地・建物を別々に評価し、この評価額を基礎に配当計算を行なっている。

 司法競売による評価は、売却額そのもの他、配当の指標等としてその重要性は高い。

 前記の例のような物件を評価をしないで売却すれば、事実上配当計算はできない。

 アメリカで民間競売が広く行なわれているのは、土地建物が一体で一個の不動産として取扱われているため、抵当権設定のあり様は単純で配当計算も単純であるからと思われる。
2025.01.30 09:41 | 固定リンク | 鑑定雑感
担保執行法制の改正と競売の今後の動向 ~ Vol.6
2025.01.23
VOL.06 民間競売制度研究会

 平成17年3月の「規制改革・民間開放推進3ヶ年計画」によれば、競売手続は実体法上の権利の実現のための必須の執行手続きのひとつであり、我が国では専ら裁判所によって実施されているが、米国では裁判所による司法制度に加え、民間競売制度が広く定着し、司法競売に比して安価で迅速な手続きであると評価されている。

 したがって、我が国においても米国その他の諸外国における民間競売制度の改善策として取り入れるべき点がないかについて検討に着手する、とされている。

これを受けて、法務省は平成17年12月に「競売制度研究会」を立ち上げ、12月7日に第1回の会合を開催している。

 開催要領によれば、月1回程度のペースで研究会を行い、1年から1年半を目途に我が国の競売制度の改善の要否やそのあり方について取りまとめを行うものとされている。

 したがって、今年の12月から来年の6月頃までには何らかの報告等があるものと思われる。

 当初の委員構成をみると、11名のうち10名が大学教授で残り1名が弁護士である。

 仄聞するところによれば、平成18年3月に改革派の委員を入れるべきという声から改革派の委員3人が入れ替った(?)とのことである。

 いずれにしても、競売手続きはこれまでと同様に司法競売の単線運転ではなく、民間競売との併存という複線運転時代に入りそうな気配が感じられる。


2025.01.23 11:50 | 固定リンク | 鑑定雑感
担保執行法制の改正と競売の今後の動向 ~ Vol.5
2025.01.16
VOL.05 担保執行法改正と競売実務

 前記でみたように、今回の改正によって競売実務が大きく変ったかといえばノーである。

 実務的に見ると、大きく変ったのは執行裁判所内部の改革によるものである。

 一つ目は、競売物件のインターネットによる全国周知である。
 当初は東京をはじめとする主要都市から試行したが、今では全国に拡大されつつある。
 このことによって全国どこからでも入札可能になったことのメリットは大きい。

 二つ目は、競売評価様式の標準化である。
 様式の標準化の作業には筆者も途中から加わったが、大変な作業であった。

 それまでは、各執行裁判所や評価人によってバラバラであった様式や評価の考え方を標準化するとなると、これまでの経緯や考え方の相異がモロに出て、怒鳴り合いのバトルを何度繰り返したことか。

 競売事務が行政事務の延長にあるとすれば、規則や通達で指示すればそれで済むと思ったが、競売事務は行政事務ではないらしく、最高裁判所は独自に決めることができないので評価人候補者が自主的(?)に集まって議論して決めてくれということであった。

 良くぞ標準化ができたものだと、今更ながら感心するが、標準化がインターネットによる情報開示にどれ程寄与したかは論をまたない。

 担保執行法改正をめぐる議論で指摘された、遅い・見にくい・売れないという問題・批判に対しては法改正の面ばかりではなく、執行裁判所・執行官・評価人候補者等の地道な努力や連携によって十分に改善されつつあると考える。
2025.01.16 16:33 | 固定リンク | 鑑定雑感
担保執行法制の改正と競売の今後の動向 ~ Vol.4
2025.01.09
VOL.04 最低売却価額制度の廃止と売却基準価額

 最低売却価額制度は、平成17年3月末に廃止され、4月からは売却基準価額となった。

 最低売却価額廃止の理由は、前二者と同じく売却率が低いのは最低売却価額が競売市場とミスマッチをおこし、これが障害となって結果的に売却が進まないというものであった。

 売却物件は所有者の意思に反して売却する為、一般の物件に比較して売りにくいのは当然である。
 また、売却単位が一般の市場ではあり得ない組合せとなっているものもある。

 いずれにしても、最低売却価額制度をめぐる議論は物件が売却しやすいように整理されてから市場に出される一般物件と、そうではない競売物件をゴチャ混ぜにしていたと思われる。

 最低売却価額が廃止され売却基準価額となって早一年が過ぎたが、この間に競売市場がコペルニクス的に大回転したかと言えば、特に大きく変った点は見られない。
 少なくとも、個人的にはそう感じている。

 ところで、売却基準価額は最低売却価額ではないので、この価額を2割下回る価額(買受可能価額という)でも入札は可能である。

 それでは全国的にみて、売却基準価額を下回る価額で落札されたケースはどの位あるのであろうか。

 確実な統計データはないが、関係者の話を総合すると概ね5%前後であるようである。
 仮に売却基準価額ではなかったとしたら、売却率は5%前後低下し、売却期間も再入札・再評価の時間だけ長期化したことになる。

 言葉を換えれば、この改正によって売却率は5%程度改善し、売却期間も数ヶ月は短縮されたと評価することも可能である。

 しかしながら、法改正に費やされたエネルギーとの比較で考えると、改正のための改正と思われても仕方がない。
2025.01.09 09:39 | 固定リンク | 鑑定雑感

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