サンタクロースがやって来た ~試される民主主義と地方自治~ Vol.2
2021.02.25
VOL.02 経済成長と拡大均衡の幻想 

 戦後経済の復興は目覚ましく、経済成長を支えるために財政規模は年々拡大してきた。
 経済成長はとどまることがないと信じていたので、いくら借金しても経済成長によって借金は必ず返せると思っていた。

 しかし、バブル崩壊後一転して経済は減速し、低成長時代に突入した。

 長期人口推計によっても分かるとおり、人口の現状維持はできない。

 一国の経済は、基本的に人口に依存している。
 人口が減少し、高齢化して労働人口も減る中で、経済成長が続くと予測するのは困難と思わざるを得ない。

 もっとも、そう考えるのは素人で、経済の専門家から見れば人口が半減しても今以上のGDPが確保される方法があるのかもしれない。

 もしそういう方法があるのであれば、国家再生の処方箋を是非書いて示してもらいたいと思うのは、筆者だけではあるまい。

 マスコミも、もう少し国・地方の財政状況の分析と対応についての息の長い、深い取材をして国民の前に明らかにして欲しいと願わざるを得ない。

 戦前の大本営発表のように、官製情報をタレ流し、国民を破滅への道へ追いやったことをマスコミは忘れないで欲しい。
 
 また、民主党も政権欲しさに国民に口当たりの良いことばかり言わないで、情報を開示して国民に財政難に対する覚悟と負担と責任の在り方を問うことを期待したい。


2021.02.25 14:16 | 固定リンク | 鑑定雑感
サンタクロースがやって来た ~試される民主主義と地方自治~ Vol.1
2021.02.18
VOL.01 マニフェスト選挙とサンタクロース

 鑑定雑感も今回で何回目になるのか、自分でも良く解らないでいる。(歳か?)

 これまでは主として鑑定ないし鑑定業界のことについて思いつくまま書いてきた。

 ある読者からは「もっと明るい話題はないの?」と聞かれたが、現在の自民党と同じく我が業界はあまりにもその世界は狭く、また世間の耳目を集めることも少ないので、内輪の話が主となるのはやむを得ず、内輪の話となると残念ながら明るい話題は少ない。

 そう自己弁護しているうちに、今回も編集長より原稿依頼の催促が来た。

 年4回の発行なのに、もう締切が来たのと文句を言っても始まらないが、今回は何を書いていいのかまとまっていない。(あァどうしよう)

 能力不足を露呈したが、とりあえず今日明日のメシを食べることを心配しているのが関の山で、短期ですら考えが及ばないのに中・長期に至っては闇のまた闇であり、原稿の締切なんぞとっくに忘れていた。(原稿料では食べていけない!!)


 話が逸れたが、今回は鑑定の世界の話題を見つけることができなかったので、地域経済の行方を憂慮する一人の田舎鑑定士の視点から、無謀にも民主主義と地方自治について考えてみることにした。

 ところで、今回はマニフェスト選挙が本格化しており、これまでの破られるためにしか存在しなかった選挙公約とは大違いであると期待している。
 このマニフェストを読むと、さながらサンタクロースのようである。
 トナカイならぬ選挙カー(自転車もあったか?)に乗って、老若男女のサンタクロースが全国を駆け回った。
 その結果、民主党の圧勝に終わったのは周知のとおりである。

 国民はサンタクロースのプレゼントに目が眩んだのか、それとも国民主権の意義に目覚めて一票を投じたのかは良く分からない。

 しかし、少なくとも自民党のサンタクロースより民主党のサンタクロースのプレゼントの方が良く見えたのは間違いない。
 なにせ国民の大半は中流以下で、これ以上の負担はできないというのが実感であろう。
 そういう意味では、民主党のプレゼントの中身の方が魅力的であったということになる。

 しかし、一国の経済を考えると、誰かが恩恵を受けるためには誰かがその負担をしなければならない。

 今回のマニフェストでは、恩恵を受ける人はハッキリしているが、負担する人は良く見えない。
 それは自民党のマニフェストも同様である。
 国・地方を合わせて 1,000兆円という借金をどうするのか。
 1,000兆円の平均利息を仮に2%として単純計算すると、年に20兆円の利息である。
 1日当たり約 556億円の利息である。
 1時間当たりでは、約23億円の利息となり、計算することさえ恐ろしい。
 それなのに、元金は減るどころか、年々増加している。

 他方、人口が減少する中で、少子高齢化は一段と進行しており、税の担い手は確実に減少している。

 このような現実を見ると、財政破綻は目前と考える他はない。

 プレゼントに喜んでいたら、後から請求書が山のように来てそのツケを払わされることになりかねない。
 国民は、タダほど高いものはないと知るべきである。
2021.02.18 14:14 | 固定リンク | 鑑定雑感
競争入札と不動産鑑定士の市場価値 ~ ニュープアーへの途 ~ Vol.4
2021.02.04
VOL.04 ニュープアーへの途 

 鑑定雑感を書く時、何時も明るい材料を捜すのであるが、残念ながらなかなか見つけることが出来ない。

 鑑定雑感が読者の共感を得ているかどうかは甚だ疑問であるが、今しばらく悲観的な内容が続くことをご容赦願いたい。

 さて、前述のとおり鑑定料金の低額化の影響は徐々に、しかも確実に鑑定士の身を蝕み始めている。

 現在の状況では、良い仕事をしようと思っても時間がなく、経費に見合う料金も貰えない。

 したがって、やむを得ず手抜きに走ることになる。

 どうせ依頼者は価格しか見ていない。
 ザルソバの料金でフルコースの料理を要求する方がどうかしているのである。
 赤信号皆で渡れば恐くないのである。
 いっそのこと鑑定評価書も計り売りにして、グラム○円とした方が良いのかもしれない。
 もっとも、依頼者からすればどうせ鑑定評価書の中身なんかどうでもいいのであろうから、一番軽いモノにしてくれということになるのかもしれない。

 話が少々ずれてしまったが、鑑定料金についてもう少し考えることとする。

 鑑定料金は、そのほとんどが人件費である。

 人件費が主となる他の業界の料金を見ると、全国的にはほとんど同一であることに驚かされる。

 一例を挙げると、マッサージである。

 全国どこでもほとんど十分で千円である。
 したがって、1時間6千円である。

 前述したように、デューデリをこの料金に当てはめると、最低で 2.5時間、良くて5時間で受付から現地調査、レポート作成まで完了しなければならないことになる。
 現実には、こんな短時間で処理することは困難である。
 安いデューデリ1件だけであると、8時間労働で、しかも経費込みで1万5千円、経費率5割とすると手取り1万円である。
 時給に換算すると、1250円。
 良くて 2,000円~ 3,000円になれば御の字である。
 
 ところで、民間給与実態調査(国税庁~平成18年分)に拠れば、男子の平均給与は約540万円(平均年齢44.3歳)である。
 実働日数は盆・暮れ・正月・夏休み・土日・祝祭日を除くと大体230日位である。
 1日当たりにすると、約23,500円である。
 
 ちなみに、公務員はそのほとんどが有給休暇を100%消化しているので、実労働日数は約200日前後である。
 とすれば、日当は27,000円に跳ね上がる。
 年収800万円とすれば、1日当たりの賃金は一般勤労者で約35,000円、公務員で4万円となる。

 これらの状況と鑑定料とを比較すると、鑑定士は如何に低賃金で働いているかが解ろうと思うのである。
 
 中部圏の鑑定士の話であるが、ある大手の鑑定業者の下請けをしていた鑑定士が、年間2000万円の売上のために土日・祝祭日なく昼夜を問わず働き、50歳過ぎで過労死したと聞いたことがある。

 下請けを断れば、次の仕事がなくなるかもしれないと不安になり、依頼された仕事全てを引き受けていたそうである。
 真面目な人ほど料金に関係なく、手抜きをしないで仕事をするため、負荷はかかりっぱなしとなる。
 その結果が過労死である。
 
 このような話を聞くことは辛いが、これが鑑定業界の実態である。

 それにしても、鑑定市場における鑑定士は、これ程の低賃金にしか評価されないとは何と情けないことか。
 天を仰ぎ嘆いてみても、これが現在の不動産鑑定士の業務に対する市場価値である。
 市場は冷酷である。
 日雇い労働者の日当程度の価値しかないと市場で評価されているのに、仲間内でお互い先生と呼び合っている滑稽さ。漫画の世界である。

 この程度の市場価値しかないのに、高度の試験が果たして必要なのであろうか。

 いっそのこと、資格者の夢から目を覚まし、不動産鑑定業法と明確に認識し、鑑定業者は従業員5人に1人の割合で鑑定評価業務取扱主任者を置かなければならないとした方が、鑑定制度の保持のためには良いのではないかと思わざるを得ない。

 少なくとも、従業員5人に1人の割合の鑑定評価業務取扱主任者が必要となれば、多くの鑑定事務所は要件を満たせないので、鑑定評価業務取扱主任者は引っ張りだことなる。

 その結果、賃金は上昇し、生活は安定する。

 原状のままでは、武士は食わねど高楊枝で、我慢競べの世界となる。

 タクシーの運転手をやりながらの携帯鑑定士、ワゴン車に一式を積んで走る移動鑑定士も出現するかもしれない。
 現在のように安値受注合戦に走っていると、自滅の道を歩むことになる。

 もっとも、市場原理主義者にすれば、専門家と雖も市場で淘汰されるべきだと考えているようであるから、中小零細事務所は淘汰されてもやむなしということであろうか。

 かくて、鑑定協会は栄え、零細業者・会員は没落するより他はなくなる。
 まるで農協とその組合員の関係を思わせる構図である。

 パパママストア的鑑定事務所はニュープアーと言われたのは、実は20年も前のアメリカの鑑定業界の話である。

 その時は、あぁ、アメリカの鑑定士は大変だなと他人事のように思っていたが、アメリカ資本主義を信奉する我が国の指導者は、アメリカと同じ道を国民に歩ませたいと考えていたようである。

 格差社会を広げ、貧乏人を追い落とし、社会不安を増大させてしまったのは事実である。
 昨今の状況を見るにつけ聞くにつけ、個人事務所はニュープアーへの道を歩まざるを得ないのかと、暗澹たる気持ちになる。
 鑑定業界の行く先は、今のアメリカの鑑定業界である。
 資本力・売上高・人数が全てである。
 中小零細の鑑定士が如何に光る才能を持っていたとしても、資本力・売上高・人数という市場原理主義のハードルの前には、為す術はない。
 資格者個人の能力をアピールする機会は、ほとんどないのである。

 かくて、市場競争の嵐が過ぎ去り、業界再編の大波が静まるまでの間、中小零細鑑定事務所はニュープアーへの途を歩むことになる。
 その先が天国か地獄かは、誰にもわからない。

 徒然なるままに愚痴ってしまったが、心はあやしうこそものぐるほしけれ。


(2009年8月 Evaluation No.34掲載/「競争入札と不動産鑑定士の市場価値 ― ニュープアーへの道」)

2021.02.04 11:59 | 固定リンク | 鑑定雑感

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