民間競売制度の導入を考える ~ Vol.9
2024.08.29
VOL.09 民間競売の課題と期待

 司法競売にしろ、民間競売にしろ、差押時の現況確定と調査の問題が多いのは先に述べたとおりである。

 民間競売が司法競売と同等の効果を発揮していく為には、司法競売特有の問題の研究が必要と考える。
 公権力の行使が必要となる民間競売ならば、その存在意義は大きいとは言えない。
 事実、公権力の行使の必要のない物権は、今でも任意売却に回されており、競売事件の申立件数は減少している。

 いずれにしても、司法競売の問題点を回避しつつ、民間競売の特性を発揮させるためには、関連法令の相当の改正が必要と思われる。

 ところで、抵当権の実行を迫られた債務者・所有者の心理的抵抗感は強いが、現場経験のない人にはなかなか理解できないことである。
 法律どおりに行動してくれるのなら、誰も苦労はしない。
 いくら契約があっても、追いつめられた債務者・所有者は、なかなか素直になれないものである。
 競売に追い込まれれば冷静に対応することは難しく、当事者でなければ理解できないことも多い。
 競売に追い込まれた債務者・所有者との微妙な関係を円滑に解決するための万全なる方法があるわけでもないのであるから、現行制度に固執することなく、司法競売・民間競売それぞれの長所を十分に理解し、債務者・所有者・債権者のみならず広く国民一般にとって負担が少なく、理解の得られ易い、そして安心して借りられる金融制度の拡充も合せて検討されることを期待したい。

 また、制度論争を対立論として捉え、感情論に振り回されることのないよう、評価人も含めて社会の要請に応えられるよう、冷静な分析と着実な業務の遂行により、競売制度の更なる拡充と発展に努力すべきではないかと考えている。

(2008年1月 「民間競売制度の導入を考える」)

2024.08.29 09:13 | 固定リンク | 鑑定雑感
民間競売制度の導入を考える ~ Vol.8
2024.08.22
VOL.08 司法競売と民間競売の限界

 以上のように、競売評価においては差押時において抵当権設定以降に発生したあらゆる状況を確定し、評価に反映させなければならない。

債権者からみれば、お金と時間はかかるが、抵当権設定後、抵当物の管理をロクにしなくても、差押時における現況を確定して売却してくれる司法競売は便利なものと思われる。

 また、司法競売の利点としては、やはり信頼性が一番である。

 裁判所が関与してくれているという安心感は、何物にも代え難い。

 しかし、司法競売にも前述したように様々な問題点があるのも事実である。

 他方、民間競売制度が司法競売制度と同等の信頼性を確立するのは容易なことではない。

 耐震偽装から始まった食に関する偽装等、民の信頼性は大きく揺らいでおり、制度の維持・保全は一筋縄ではいかないものと思われるが、制度設計次第で対応可能と考える。

 ところで、抵当権設定後数10年も経過すれば、当初の人間関係は崩れ、契約を守るという期待はできない。

 任意の話し合いができない以上、公権力の行使によって強制的に金銭関係を整理する方法の社会的存在意義は大きい。

 これに対して民間競売は、私的実行特約付抵当権設定(仮称)となり、売却方法等はあらかじめ契約によって定めるとしている。

 抵当権設定時と差押時の状況に変化がなく、人的関係も維持されていれば私的実行特約における契約は良く守ってくれるものと期待される。

 しかし、現実の日本では、契約を守らない輩が出てくる。

 特に抵当権設定後数10年も経過すれば、設定時の状況を良く知る者はいないことが多く、人間関係も破壊されていることが多いものと思われる。

 司法競売においてさえ、現況確定の調査に非協力的であることは日常茶飯事であり、現況調査命令・評価命令という葵の御紋の威力は、予想以上に小さい。

 民間競売で仮に人間関係が破壊され、任意の調査協力が得られない、あるいは協力するふりをしての調査引延ばし、第三占有者からの有益費の請求、留置権の行使等の状態が生ずれば、私的実行特約付抵当権による民間競売は結局不調になるものと思われる。

 つまり、これらを排除しようとすれば公権力の行使になることから、執行官に協力依頼するか、訴訟によって法的に対応しなければならず、司法競売より費用と時間がかかることも予想される。

 民間競売が良く機能する前提条件としては、債権者・債務者の人的関係・信頼関係が維持され、抵当物の状態に大きな変化がなく、売却時の調査等に積極的に協力してくれる状態が保証されることが必要と思われることから、民間競売の円滑な運営のハードルは意外と高いのかもしれない。
2024.08.22 09:57 | 固定リンク | 鑑定雑感
民間競売制度の導入を考える ~ Vol.7
2024.08.08
VOL.07 差押時における現況確定

 民事執行法上は、差押時において差押不動産に係る物的・法的関係を全て確定しなければならないとされている。

 土地における物的な関係では、地番・地目・地積・道路・供給処理施設等、建物では所在位置・家屋番号・床面積・増改築の有無等が挙げられる。

 公法的な関係では、土地・建物に共通するものとして不動産に関する行政法上の制限・許認可の有無・違反の有無等の他、私法上の問題としては民法・借地借家法等があり、抵当権設定時と差押時の権利の異動の他、法定地上権の成否・有益費・必要費等の確認、附属建物の有無、抵当権の効力の及ぶ範囲の確認・確定等、民事執行法に例示されていない現況の確定作業は数多くある。

 これらの事項を限られた時間と費用で全て確定させるのは至難の業である。

 更に厄介なのは、広大な山林のように範囲や現況の確認が物理的に不可能なものはどうするのか、また、農地については現況地目イコール農業委員会の認定地目とならない場合があり、この場合どう取扱うのか。

 因みに、不動産登記法では、地目は一部に相異があっても全体として判断せよとなっているが、民事執行法における現況地目の判定は、不動産登記法に準拠するということにはなっていない。

 したがって、広大な牧場に厩舎が一棟でもあれば、現況地目は牧場一部宅地と表示することになり、法定地上権の成否も検討しなければならないことになるが、本当にこれで良いのか今もって解らない。

 いずれにしても、抵当権設定時から長いもので20数年も経過してから、設定時と差押時の状況を確定・精査し、その上で抵当権者に対抗可能な権利関係等が発生しているのかどうか、抵当物の価値に影響を及ぼす物的・法的状況があるのかどうかを確定するのは、大変な作業となる。

 また、このような物件は地方に多く存在し、処理時間や売却率に大きな差が生ずる原因となっているが、都会にいる人がこれらを実感することは難しい。
2024.08.08 11:08 | 固定リンク | 鑑定雑感
民間競売制度の導入を考える ~ Vol.6
2024.08.01
VOL.06 現況主義について

 競売評価は、差押え時の現状に基づいて評価しなければならないとされており、評価条件を付すことができない。

 ところで、差押え時の不動産の現況の確定とは、一体何をどこまで確定すれば良いのかは判然としない。

 民事執行法では、評価書の記載内容として不動産の所在する場所の環境の概要、都市計画法、建築基準法その他の法令に基づく制限の有無、内容又、土地については地積、建物については床面積・種類・構造等が例示されているが、評価人は何をどこまで調査・確定しなければならないかは何も規定していない。

 宅地建物取引業法では、法第35条において重要事項の説明義務を明示しており、その内容も詳細に規定している。

 民事執行法ではこのような詳細な規定がないため、例示されている基本的な事項は別にして、調査事項の範囲・内容等の確認は評価人によって様々である。

 その為、誤解を生ずることも少なくない。

 また、調査・説明範囲が明定されていないため、物件によっては与えられた時間内ではどうしても調査を終えることができない場合が出てくる。

 他方、調査事項が明定されていないため、基本的な部分のみの調査で終わらせても、執行裁判所はそれが十分な調査を踏まえたものであるかどうかを確認することはできない。

 したがって、確認不十分なまま売却され、競落人が改めて調査した結果重大なミスが発見されることもある。

 話はやや逸れてしまったが、評価書の記載内容の例示はあるが、現況の確定とは何かについてはもっぱら解釈論に委ねられている。

 判例によれば、厳格な現況確定を期待しているものから、時間と費用が限られているのであるからその範囲内での現況確定で良しとするものまで、見解は必ずしも統一的ではない。

 これらの問題が物件の確定作業の長期化につながり、早期処分の足かせになっていることは否定できない。
2024.08.01 09:18 | 固定リンク | 鑑定雑感

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