民間競売制度の導入を考える ~ Vol.5
2024.07.25
VOL.05 評価人の法的位置づけと責任

 前述したように、民事執行法上は評価人を選任して評価を命じなければならないとされているだけで、評価人の法律上の身分は判然としない。

 不十分ながら調査権も付与されているのであるから、公務員に準じて取扱われるべきものと考えるが、評価ミス・調査ミスをめぐる損害賠償請求事件の判例をみると、一体評価人はどういう立場の人間であるのか訳が解らなくなるのである。

 執行官のミスは国家賠償の対象となる(身分がハッキリしている)のに、執行官と同じく命令に従い、時には執行裁判所の指導に従って評価を行なった評価人がミスを犯せば民事訴訟の対象となるのでは、法律上の均衡を著しく失しているものと考えざるを得ない。

 仮に、評価命令によって行なった評価が民事訴訟の対象となるのであれば、評価命令の法的性質は単なる請負契約の一形態と考えざるを得ない。

 しかしながら、業務の性質や量に関係なく一方的に日限を区切り、報酬も示さず、更には調査・評価の範囲や限界も示さず、謝絶の自由もままならないこのような業務が請負契約であると考える人はまずいないであろう。

 評価命令は一方的で、受諾の意志を問わないのであるから、個人的には私的契約ではないと考えざるを得ない。

 尚、過去の判例をみると評価人のミスは国家賠償の対象となるとする判例から、ならないとする判例まで両極端であり、現場の裁判官も混乱している。

 評価人の法的身分は今もって不安定である。評価人として業務を行ない、不動産鑑定士として責任を問うのであれば、最初から不動産鑑定法の枠内で評価業務を行なわせるべきではないかと思わざるを得ない。
2024.07.25 13:45 | 固定リンク | 鑑定雑感
民間競売制度の導入を考える ~ Vol.4
2024.07.18
VOL.04 評価人の資格・要件

 前述のように、評価人は法律の専門家でもないのに、競売物件の評価のプロセスで否応なく法的判断をしなければならない場合がある。

 その結果、不具合が生じ、後日評価人そのものが民事訴訟で損害賠償請求されることがある。

 これらのことを考えると、評価人とは摩訶不思議な立場の人間であると思わざるを得ない。

 ところで、民事執行法上は、評価人の定義もなければその職責(対裁判所・対競落人)も明らかにしていない。

 つまり、評価人は一方的に執行裁判所が選任し(現在ではあらかじめ評価人候補者名簿を作成し、その中から選任している)、物件目録記載の不動産(何がくるのかは解らない)を何月何日(基本的には土日を含めて40日程度)までに評価して報告せよと命令されるだけで、合理的な理由がなければ謝絶はできない。

 そして、評価人の資格制限は法定されていないので、法律上は原則として誰がなってもかまわないことになる。

 但し、民事執行法上の文脈からすれば、評価人としては不動産鑑定士が一番相応しいと考えられるが、現実的には不動産鑑定士でない者が評価人をしているところもあり、他方不動産鑑定士なら誰でも評価人になれるかというと、そうもなっていない。

 特に三大都市圏で評価人になるのは至難である。

 更に、評価人の定義がないのであるから、評価人にどのような能力や経験が必要とされているのかは判然としない。

 過去の判例を見ると、不動産鑑定士あるいはそれと同等以上の能力の他に、測量士・建築士並みの能力を要求しているかのようなケースも見られる。
2024.07.18 13:23 | 固定リンク | 鑑定雑感
民間競売制度の導入を考える ~ Vol.3
2024.07.12
VOL.03 3.抵当権の実行は訴訟手続なのか売却事務手続なのか

 競売評価人になって一番先に変だなと思ったのは、競売の一連の流れ、つまり抵当権の実行申立から調査・評価・売却・配当・物件の引渡しに至るプロセスが訴訟なのか、単なる売却事務手続なのか判然としないことである。

 実感としては、債権者・債務者双方で争っている訳ではなく、単に定められた?手続に従って処理しているとしか思えないのである。

 仮に単なる事務手続ならば、その内容は明確に定めておくべきであり、いやしくも法治国家である以上、全国一律であるべきと思うが、現実的には必ずしもそうはなっていない。

 民事執行法制定以前は、民事訴訟法の中で処理されていたため、民事執行法全体が訴訟手続の流れを汲んでいるものと思われるが、実体的には単なる売却事務手続としか思えず、裁判所(裁判官)毎に処理の仕方が微妙に、時には大きく異なるのは如何かと思わざるを得ない。

 個人的には民事執行法を再検討し、訴訟手続にわたる部分と売却事務手続にわたる部分を峻別し、売却事務手続(単なる申立の書式のことを言っている訳ではない)の部分については、規則・省令等で示すべきではないかと考える。

 尚、その一例を挙げると次のとおりである。

・売却単位の取扱い
  ・仮設建物の取扱い
・附属建物の判断基準
  ・敷金の取扱い(特に高額敷金の取扱い)
・物件調査の範囲と限界 
  ・有益費の認定
・現況地目の判定と限界(特に広大地や農地)
・評価人の職責と身分   
  ・現況確定の範囲と限界
・競売評価運用基準の制定
  ・評価人報酬の明定   等

 これ以外にも多々あるが、紙数の関係から割愛するが、現状は前記事項の多くが第一義的に評価人の判断に任されており、果してこれで良いのかという疑問は拭えない。

 評価人は証拠調べも審尋もしないで、形式的な意見聴取で一方的に判断しているが、後日訴訟になれば評価人は極めて危うい立場に置かれてしまうことになりはしないかと、一人気を揉んでいる。
2024.07.12 09:06 | 固定リンク | 鑑定雑感

- CafeLog -