民間競売制度の導入を考える ~ Vol.4
2024.07.18
VOL.04 評価人の資格・要件

 前述のように、評価人は法律の専門家でもないのに、競売物件の評価のプロセスで否応なく法的判断をしなければならない場合がある。

 その結果、不具合が生じ、後日評価人そのものが民事訴訟で損害賠償請求されることがある。

 これらのことを考えると、評価人とは摩訶不思議な立場の人間であると思わざるを得ない。

 ところで、民事執行法上は、評価人の定義もなければその職責(対裁判所・対競落人)も明らかにしていない。

 つまり、評価人は一方的に執行裁判所が選任し(現在ではあらかじめ評価人候補者名簿を作成し、その中から選任している)、物件目録記載の不動産(何がくるのかは解らない)を何月何日(基本的には土日を含めて40日程度)までに評価して報告せよと命令されるだけで、合理的な理由がなければ謝絶はできない。

 そして、評価人の資格制限は法定されていないので、法律上は原則として誰がなってもかまわないことになる。

 但し、民事執行法上の文脈からすれば、評価人としては不動産鑑定士が一番相応しいと考えられるが、現実的には不動産鑑定士でない者が評価人をしているところもあり、他方不動産鑑定士なら誰でも評価人になれるかというと、そうもなっていない。

 特に三大都市圏で評価人になるのは至難である。

 更に、評価人の定義がないのであるから、評価人にどのような能力や経験が必要とされているのかは判然としない。

 過去の判例を見ると、不動産鑑定士あるいはそれと同等以上の能力の他に、測量士・建築士並みの能力を要求しているかのようなケースも見られる。
2024.07.18 13:23 | 固定リンク | 鑑定雑感
民間競売制度の導入を考える ~ Vol.3
2024.07.12
VOL.03 3.抵当権の実行は訴訟手続なのか売却事務手続なのか

 競売評価人になって一番先に変だなと思ったのは、競売の一連の流れ、つまり抵当権の実行申立から調査・評価・売却・配当・物件の引渡しに至るプロセスが訴訟なのか、単なる売却事務手続なのか判然としないことである。

 実感としては、債権者・債務者双方で争っている訳ではなく、単に定められた?手続に従って処理しているとしか思えないのである。

 仮に単なる事務手続ならば、その内容は明確に定めておくべきであり、いやしくも法治国家である以上、全国一律であるべきと思うが、現実的には必ずしもそうはなっていない。

 民事執行法制定以前は、民事訴訟法の中で処理されていたため、民事執行法全体が訴訟手続の流れを汲んでいるものと思われるが、実体的には単なる売却事務手続としか思えず、裁判所(裁判官)毎に処理の仕方が微妙に、時には大きく異なるのは如何かと思わざるを得ない。

 個人的には民事執行法を再検討し、訴訟手続にわたる部分と売却事務手続にわたる部分を峻別し、売却事務手続(単なる申立の書式のことを言っている訳ではない)の部分については、規則・省令等で示すべきではないかと考える。

 尚、その一例を挙げると次のとおりである。

・売却単位の取扱い
  ・仮設建物の取扱い
・附属建物の判断基準
  ・敷金の取扱い(特に高額敷金の取扱い)
・物件調査の範囲と限界 
  ・有益費の認定
・現況地目の判定と限界(特に広大地や農地)
・評価人の職責と身分   
  ・現況確定の範囲と限界
・競売評価運用基準の制定
  ・評価人報酬の明定   等

 これ以外にも多々あるが、紙数の関係から割愛するが、現状は前記事項の多くが第一義的に評価人の判断に任されており、果してこれで良いのかという疑問は拭えない。

 評価人は証拠調べも審尋もしないで、形式的な意見聴取で一方的に判断しているが、後日訴訟になれば評価人は極めて危うい立場に置かれてしまうことになりはしないかと、一人気を揉んでいる。
2024.07.12 09:06 | 固定リンク | 鑑定雑感
民間競売制度の導入を考える ~ Vol.2
2024.07.04
VOL.02 競売制度研究会における二次案とこれを巡る争点


 研究会からA案~D案の四案が示されている。

 各案の詳細については他の論文に譲るが、骨子はA案~C案は司法競売をベースとしている為、司法競売の補完ないし選択肢の拡大という本来の目的からすれば現行の司法競売と大同小異と言わざるを得ない。

 また、この案では、わざわざ民間競売と称する合理的理由も見当らない。

 本音を言わせてもらえば、A案~C案では現行の司法競売と本質的に大差はなく、この案を主張するならいっそ民間競売反対論の方が説得力があるように思えてならない。

 D案は、「規制改革・民間開放推進3ヶ年計画」の趣旨に則しており、本来的な民間競売の姿であると認めざるを得ない。

 債務者・債権者の合意があればどう売却しても文句は言わないことが相互に保証されるのなら、双方にとってメリットはあるかもしれない。

 研究会における議論は、制度論・法律論にまたがって細かな点についても検討されてはいるが、競売評価人として現場を担当する者からみれば、何となく違和感があって馴染めない点も多い。
2024.07.04 17:54 | 固定リンク | 鑑定雑感

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