担保執行法制の改正と競売の今後の動向 ~ Vol.9
2025.02.13
VOL.09 民間競売について

 昨今、不動産の民間競売(ネットオークション)が浸透しつつある。

 確かに売りたい人にとって相対取引よりは市場が広がり、納得の行く価格で売却される可能性は高い。

 売却上の問題点(法律上の問題点や土地・建物の物的問題点等)がクリアーされていれば、ネットオークションはその力を発揮する。

 しかし、物件の調査やリスク情報の開示が不十分であれば、オークションに参加する者の競落上のリスクは増大する。

 現在行われている民間競売が機能しているのは、販売の手段として機能しているだけで、販売後の瑕疵担保責任や引渡し、融資その他諸々の問題は基本的に当事者間で解決可能だからと思われる。

 担保権実行の一つの手段として民間競売を考えると、そこには大きなハードルがいくつも待ち構えているような気がする。

 まず第一に、債務者・所有者に調査する費用はない。

 第二に調査に協力してくれるという保証もない。(法改正して強制調査が可能となれば別だが、司法競売でも調査非協力の場合は難儀しているのに民間に強大な調査権を付与できるかどうかは疑問である)

 第三に、抵当権が相互に入れ違っている場合には配当計算ができない。
 もっとも、法律で計算ルールを作れば良いが、現在でも法律上のルールはないのに民間競売のためにそこまでするかどうかは大いに疑問がある。

 第四に、民間競売の主体に誰がなるのかである。
 多分サービサー等が民間競売の担い手として一番近いものと考えられるが、債務者・所有者の協力の得られない物件をどう調査するのか、それとも調査せずに単に売るだけなのか、また売却手数料や調査料は誰がどう決めるのか、それともそれさえ民間競売で好きなようにやれというのか等の問題がある。

 日本人の感覚としては、担保権実行のようなトラブル案件は、司法の力を借りた方が利害関係者の納得性が高い。

 「規制改革・民間開放推進3ヵ年計画」の言葉を借りれば、司法競売はあいも変らず競売費用が高くて遅いということになるが、民間競売のハードルの高さを考えれば、必ずしもそうとは言えないことになる。

 また、安くて早くても雑であれば問題は更に拡散する。
2025.02.13 09:36 | 固定リンク | 鑑定雑感
担保執行法制の改正と競売の今後の動向 ~ Vol.8
2025.02.06
VOL.08 不動産担保金融制度の相異

 アメリカでは、不動産金融はノンリコースが一般的であり、支払不能となった場合は抵当不動産を手放すだけで債権債務の関係は解消され、敗者復活は容易である。

 これに対し、日本の不動産は一部の物件にノンリコース型の担保金融がみられるものの、大半はリコース型で、更に悪名高い連帯保証が付帯されるため、意思に反して売却に付される債務者・所有者の抵抗は大きい。

 しかも、残債も追及されるため債務者・所有者の一家離散・自殺・夜逃等も多く見られ、敗者復活の道のりは暗くて遠い。

 競売制度は一国の不動産のあり様や歴史・文化・金融制度等と密接不可分と考えられる。

 特に地方圏ではその傾向が強く、ただ単に売れば良いという単純な構造にはなっていない。

 現在においても債務者・所有者に対する気配りは欠かせず、現場調査における執行官の気苦労は計り知れず、評価人も同様の気苦労を負っている。

 支払不能となったら競売でロクに調査もせず、適当にパッパッと売却できるのであれば苦労はない。

 競売制度と金融制度は車の両輪であることから、是非金融制度との関連についても研究してもらいたいものである。
2025.02.06 09:23 | 固定リンク | 鑑定雑感
担保執行法制の改正と競売の今後の動向 ~ Vol.7
2025.01.30
VOL.07 我が国特有の競売事情

 日本とアメリカでは不動産のあり方が決定的に異なっているため、民間競売になじまない面がある。

 つまり、日本では土地・建物は別個の不動産として取り扱われているため、抵当権設定のあり様は多様であり、抵当権者相互の調整(売却代金の配分等)が複雑となっている。

 一例を挙げると次のとおりである。
  ●土地・建物が同一所有者でもそれぞれの第1順位の抵当権者が異なっている。
  ●土地・建物が別々の所有者で、抵当権者が異なっている。
  ●土地・建物は同一所有者であるが、土地にしか抵当権が設定されていない。
  ●更地に抵当権が設定された後に建物が築造された。等

 これらの例をみるとおり、土地・建物を別個の不動産として取扱っているため、売却できたとしても売却代金を各抵当権者にどのように配分するかを決めるのは容易ではない。
 この問題を解決するために現在の競売評価では一括売却を前提としつつも、売却代金の割り振りのために、土地・建物を別々に評価し、この評価額を基礎に配当計算を行なっている。

 司法競売による評価は、売却額そのもの他、配当の指標等としてその重要性は高い。

 前記の例のような物件を評価をしないで売却すれば、事実上配当計算はできない。

 アメリカで民間競売が広く行なわれているのは、土地建物が一体で一個の不動産として取扱われているため、抵当権設定のあり様は単純で配当計算も単純であるからと思われる。
2025.01.30 09:41 | 固定リンク | 鑑定雑感

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