改正個人情報保護法と不動産取引情報 ~ Vol.3
2022.04.01
VOL.03 米国ではマーケットデータが販売


アメリカでは、マーケットデータを専門に収集する会社があり、取引データはマーケットデータブックとして販売しており、写真付きで価格のみならず、間取りや修繕履歴等も記載されている。

 アプレイザーはこのマーケットデータブックを購入し、それを基に分析を試み、評価しているが、日本のアプレイザーは、マーケットデータブックを作成する会社の職員と同様に、マーケットデータの整理等に業務の大半の時間を取られており、本来の分析に割く時間は少ない。

また、評価書の需要者も特に優れた分析を期待している訳では無いので、まともな対価を払おうともしない。

 鑑定報酬は安ければ良い、中身はどうでもいいと言われると心が折れそうになるが、今日・明日のパンのためにやむを得ず引き受けることもある。

 社会やマーケットの不動産鑑定士に対する評価は、鑑定報酬に見事に反映されており、いくら試験が難しいとはいっても、全く評価されていない。

 まして、ガイドラインにより評価書の中身が一緒になるように要求されると、差別化が図れず、鑑定業務は限りなくコモディティ化する。

 その結果、消費者の選択基準は価格だけとなるので、価格競争は激化し、共倒れの危険性に陥る可能性が出てくる。

 受験者が減少しているのは、別に試験のせいではなく、マーケットの冷ややかな反応と考えるべきである。

 サプライサイド的な考え方では、更地評価のような分かりやすい公的評価の大半は、いずれ特化型人工知能により駆逐される可能性は高いと考える。

 韓国鑑定評価協会の広報誌においても、ビッグデータ時代を迎え、公開される情報量が増加し、分析手法も共有化され、単純化されれば、専門家の領域は縮小すると指摘している。

いずれにしても、ビッグデータとしての不動産取引情報の扱い方については、広く社会に問いかけ、そのあり方についての大胆な提言が望まれる。

2022.04.01 11:40 | 固定リンク | 鑑定雑感
改正個人情報保護法と不動産取引情報 ~ Vol.2
2022.03.25
VOL.02 オープン化されていない不動産取引情報

 一方、不動産取引情報は、これまで個人情報に該当し、一部の人間しか使えなかったが、これをどのように考えたら良いのであろうか。

 個人情報の定義によれば、取引された不動産の所在・地番・地積・取引年月日・価格は、個人情報に該当するとは思えない。

 しかしながら、同法2条1項では、

 『他の情報と容易に照合することができ、それにより特定の個人を識別することとなるものを含む』
 とされているため、一般公開されている登記情報で容易に所有者の住所・氏名を確認することができることから、不動産取引情報は個人情報に該当するといえることになる。

そうすると、不動産取引情報をビッグデータとして利活用することは、事実上不可能となる。

 くどいようだが、不動産は不動産登記法により、その所在・地番・地目・地積が、建物については、家屋番号・床面積・築年月日等が、それぞれ所有者の住所・氏名・登記原因・抵当権等の内容とともに、何人にも公開されている。

したがって、他の情報に比較すると、匿名加工された不動産情報とはいっても、公開情報により所有者の住所・氏名を識別することは容易である。

 識別容易であるから個人情報になるとすると、結果的にわずか数千人の特定の団体の構成員しか利用できないことになる。

 ビッグデータの利活用やAIの発展・活用等を考えると、不動産取引に関する情報を個人情報として扱うことは、国家的損失と言わざるを得ない。

 本誌で紹介されている韓国鑑定評価協会の広報誌によれば、韓国内においても、不動産取引情報の扱い方について問題提起されている。

それによれば、我が国と同じような情報公開のあり方に対し、住所・地番が抜けた実取引価格は、どんな不動産データとも結合できず、展示行政の見本だとして、手厳しく批判している。

 詳しくは分からないが、個人情報の扱い方に厳しいアメリカでさえも、不動産取引情報のオープンデータ化は進んでいる。
2022.03.25 09:00 | 固定リンク | 鑑定雑感
改正個人情報保護法と不動産取引情報 ~ Vol.1
2022.03.17
VOL.01 改正個人情報保護法

 改正個人情報保護法が5月30日から全面施行された。
これにより、個人情報の取扱いルールが大きく変わることになる。

改正内容は、個人情報の定義の明確化、適切な管理のもとでの個人情報の有用性の確保、個人情報の保護の強化、個人情報保護委員会の設置、権限、個人情報の取扱いのグローバル化、その他改正事項の6項目となっている。

個人情報の定義として、住所・氏名・生年月日の他、身体認識データ(顔・指紋等)の他、パスポート、免許証の番号、マイナンバー等がその対象となることが明確にされた。

 また、これまで5千人分以下の個人情報を取扱う小規模事業者は適用外であったが、人数要件が撤廃されたため、全ての事業者が対象となった。

さらに、同意なく情報提供ができる特例~オプトアウトを受けるためには、個人情報保護委員会への届出が必要になった。

 要配慮個人情報(人種・信条・病歴・犯罪歴等)の取得または第三者提供は、原則として事前に本人の同意が必要となった。

  他方、ビッグデータの活用から、匿名加工情報(匿名加工情報データベース等を構築するものに限る)の自由な流通、利活用を促進することができることとなった。

 これにより、本格的なビッグデータ活用時代を迎えることになる。

 AIはネット空間に放出される膨大なデータを一瞬のうちに集め、様々な角度から分析し、その中から新たに有用な情報を我々に提供してくれるものと思われる。

2022.03.17 11:40 | 固定リンク | 鑑定雑感

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