改正個人情報保護法と不動産取引情報 ~ Vol.4
2022.04.07
VOL.04 個人と公的団体との取引
ところで、話は少し変わるが、改正個人情報保護法では、個人情報を生存する個人としていることから、死亡した個人や法人は、どう扱われるのであろうか。
Jリートでは、評価書や売買価格を公開している。
上場会社も、公開している。
この法律を単純に読むと、売主・買主ともに法人であれば、個人情報に該当しないことになる。
それでは売主が個人・買主が公的団体の場合は、一体どういう扱いになるのであろうか。
これまで、売買当事者の一方が個人であれば、疑いもなく個人情報と認識し、情報提供は拒否されてきた。
私もそのように理解してきたが、改正個人情報保護法の全面施行を機会に調べたところ、大変参考となる最高裁判決を目にしたので、ご承知の方も多いと思われるが紹介する。
事例は、名古屋市土地開発公社を相手に、公社が先行取得した土地の一覧表について公開請求を行なったものである。
平成17年7月15日の判決によれば、保有土地一覧表には、公社が保有する土地ごとに事業名称・所在地・地目・面積・契約年月日・取得価格・補償金の額並びにそれらの単価等が記載されているが、取得価格そのものが個人情報に当たるかどうかが争われている。
これによれば、個人から取得した土地の取得価格に関する情報は、特定の個人を識別しうるが、公示価格を規準として算定しており、一般人であればおおよその見当をつけることができる一定の範囲内の客観的な価格ということができるので、地権者にとって、私事としての性質が強いものではないので、公開に親しまない個人情報であるとはいえないため、非公開情報には該当しないと判示している。
但し、補償額は非開示情報に該当するとしている。
つまり、公的団体が取得した土地の所在・地番・地積・取得価格は、非公開情報に該当しないので、公開しなさいということである。
では、公有地を売却した場合の売却価格は、個人情報になるのであろうか。
売買当事者の一方が、法人または公共団体の場合はどうなるのか。
個人情報の定義によれば、法人は含まれないので、法人間取引や公共団体と法人間の取引は個人情報に該当しないことになるが、本当にそうなるのであろうか。
ビッグデータの利活用が求められる時代においては、不動産取引情報の扱い方について更なる議論の深化が必要と考える。
最後に、2017年2月13日に発表された、新経済連盟の不動産市場拡大推進PTによる『不動産・新産業革命~名目GDP600兆円に向けた成長戦略』の一部を紹介する。
このレポート(全33ページ)の中で、不動産総合データベースが持つと更に望ましい事項として、次の四つを挙げている。
一、各種情報の紐付けを可能とする不動産IDの整備
二、成約取引情報
三、民間における不動産売買以外の情報
四、インスペクション実施の有無と、実施している場合の内容の情報
次いで、個別政策提言の内容として、
提言1.不動産情報バンクの整備
提言2.不動産の利活用を推進するための評価手法の見直し
提言3.不動産再生手法の導入の検討
を挙げ、提言1では、登記簿における成約取引情報記載の必須化、提言2では、評価手法の見直しと利用促進と題し、(公財)不動産流通センター策定の「既存住宅価格査定マニュアル」の制度化と、不動産・金融業界による活用の促進を提言している。
レポート全体を見ても、残念ながら不動産鑑定・不動産鑑定士の活用という文言は、一切見当たらない。
我々はこのことを良く良く思い知る必要がある。
ところで、話は少し変わるが、改正個人情報保護法では、個人情報を生存する個人としていることから、死亡した個人や法人は、どう扱われるのであろうか。
Jリートでは、評価書や売買価格を公開している。
上場会社も、公開している。
この法律を単純に読むと、売主・買主ともに法人であれば、個人情報に該当しないことになる。
それでは売主が個人・買主が公的団体の場合は、一体どういう扱いになるのであろうか。
これまで、売買当事者の一方が個人であれば、疑いもなく個人情報と認識し、情報提供は拒否されてきた。
私もそのように理解してきたが、改正個人情報保護法の全面施行を機会に調べたところ、大変参考となる最高裁判決を目にしたので、ご承知の方も多いと思われるが紹介する。
事例は、名古屋市土地開発公社を相手に、公社が先行取得した土地の一覧表について公開請求を行なったものである。
平成17年7月15日の判決によれば、保有土地一覧表には、公社が保有する土地ごとに事業名称・所在地・地目・面積・契約年月日・取得価格・補償金の額並びにそれらの単価等が記載されているが、取得価格そのものが個人情報に当たるかどうかが争われている。
これによれば、個人から取得した土地の取得価格に関する情報は、特定の個人を識別しうるが、公示価格を規準として算定しており、一般人であればおおよその見当をつけることができる一定の範囲内の客観的な価格ということができるので、地権者にとって、私事としての性質が強いものではないので、公開に親しまない個人情報であるとはいえないため、非公開情報には該当しないと判示している。
但し、補償額は非開示情報に該当するとしている。
つまり、公的団体が取得した土地の所在・地番・地積・取得価格は、非公開情報に該当しないので、公開しなさいということである。
では、公有地を売却した場合の売却価格は、個人情報になるのであろうか。
売買当事者の一方が、法人または公共団体の場合はどうなるのか。
個人情報の定義によれば、法人は含まれないので、法人間取引や公共団体と法人間の取引は個人情報に該当しないことになるが、本当にそうなるのであろうか。
ビッグデータの利活用が求められる時代においては、不動産取引情報の扱い方について更なる議論の深化が必要と考える。
最後に、2017年2月13日に発表された、新経済連盟の不動産市場拡大推進PTによる『不動産・新産業革命~名目GDP600兆円に向けた成長戦略』の一部を紹介する。
このレポート(全33ページ)の中で、不動産総合データベースが持つと更に望ましい事項として、次の四つを挙げている。
一、各種情報の紐付けを可能とする不動産IDの整備
二、成約取引情報
三、民間における不動産売買以外の情報
四、インスペクション実施の有無と、実施している場合の内容の情報
次いで、個別政策提言の内容として、
提言1.不動産情報バンクの整備
提言2.不動産の利活用を推進するための評価手法の見直し
提言3.不動産再生手法の導入の検討
を挙げ、提言1では、登記簿における成約取引情報記載の必須化、提言2では、評価手法の見直しと利用促進と題し、(公財)不動産流通センター策定の「既存住宅価格査定マニュアル」の制度化と、不動産・金融業界による活用の促進を提言している。
レポート全体を見ても、残念ながら不動産鑑定・不動産鑑定士の活用という文言は、一切見当たらない。
我々はこのことを良く良く思い知る必要がある。
(2017年9月 傍目八目掲載/「改正個人情報保護法と不動産取引情報」)
改正個人情報保護法と不動産取引情報 ~ Vol.3
2022.04.01
VOL.03 米国ではマーケットデータが販売
アメリカでは、マーケットデータを専門に収集する会社があり、取引データはマーケットデータブックとして販売しており、写真付きで価格のみならず、間取りや修繕履歴等も記載されている。
アプレイザーはこのマーケットデータブックを購入し、それを基に分析を試み、評価しているが、日本のアプレイザーは、マーケットデータブックを作成する会社の職員と同様に、マーケットデータの整理等に業務の大半の時間を取られており、本来の分析に割く時間は少ない。
また、評価書の需要者も特に優れた分析を期待している訳では無いので、まともな対価を払おうともしない。
鑑定報酬は安ければ良い、中身はどうでもいいと言われると心が折れそうになるが、今日・明日のパンのためにやむを得ず引き受けることもある。
社会やマーケットの不動産鑑定士に対する評価は、鑑定報酬に見事に反映されており、いくら試験が難しいとはいっても、全く評価されていない。
まして、ガイドラインにより評価書の中身が一緒になるように要求されると、差別化が図れず、鑑定業務は限りなくコモディティ化する。
その結果、消費者の選択基準は価格だけとなるので、価格競争は激化し、共倒れの危険性に陥る可能性が出てくる。
受験者が減少しているのは、別に試験のせいではなく、マーケットの冷ややかな反応と考えるべきである。
サプライサイド的な考え方では、更地評価のような分かりやすい公的評価の大半は、いずれ特化型人工知能により駆逐される可能性は高いと考える。
韓国鑑定評価協会の広報誌においても、ビッグデータ時代を迎え、公開される情報量が増加し、分析手法も共有化され、単純化されれば、専門家の領域は縮小すると指摘している。
いずれにしても、ビッグデータとしての不動産取引情報の扱い方については、広く社会に問いかけ、そのあり方についての大胆な提言が望まれる。
アメリカでは、マーケットデータを専門に収集する会社があり、取引データはマーケットデータブックとして販売しており、写真付きで価格のみならず、間取りや修繕履歴等も記載されている。
アプレイザーはこのマーケットデータブックを購入し、それを基に分析を試み、評価しているが、日本のアプレイザーは、マーケットデータブックを作成する会社の職員と同様に、マーケットデータの整理等に業務の大半の時間を取られており、本来の分析に割く時間は少ない。
また、評価書の需要者も特に優れた分析を期待している訳では無いので、まともな対価を払おうともしない。
鑑定報酬は安ければ良い、中身はどうでもいいと言われると心が折れそうになるが、今日・明日のパンのためにやむを得ず引き受けることもある。
社会やマーケットの不動産鑑定士に対する評価は、鑑定報酬に見事に反映されており、いくら試験が難しいとはいっても、全く評価されていない。
まして、ガイドラインにより評価書の中身が一緒になるように要求されると、差別化が図れず、鑑定業務は限りなくコモディティ化する。
その結果、消費者の選択基準は価格だけとなるので、価格競争は激化し、共倒れの危険性に陥る可能性が出てくる。
受験者が減少しているのは、別に試験のせいではなく、マーケットの冷ややかな反応と考えるべきである。
サプライサイド的な考え方では、更地評価のような分かりやすい公的評価の大半は、いずれ特化型人工知能により駆逐される可能性は高いと考える。
韓国鑑定評価協会の広報誌においても、ビッグデータ時代を迎え、公開される情報量が増加し、分析手法も共有化され、単純化されれば、専門家の領域は縮小すると指摘している。
いずれにしても、ビッグデータとしての不動産取引情報の扱い方については、広く社会に問いかけ、そのあり方についての大胆な提言が望まれる。
改正個人情報保護法と不動産取引情報 ~ Vol.2
2022.03.25
VOL.02 オープン化されていない不動産取引情報
一方、不動産取引情報は、これまで個人情報に該当し、一部の人間しか使えなかったが、これをどのように考えたら良いのであろうか。
個人情報の定義によれば、取引された不動産の所在・地番・地積・取引年月日・価格は、個人情報に該当するとは思えない。
しかしながら、同法2条1項では、
『他の情報と容易に照合することができ、それにより特定の個人を識別することとなるものを含む』
とされているため、一般公開されている登記情報で容易に所有者の住所・氏名を確認することができることから、不動産取引情報は個人情報に該当するといえることになる。
そうすると、不動産取引情報をビッグデータとして利活用することは、事実上不可能となる。
くどいようだが、不動産は不動産登記法により、その所在・地番・地目・地積が、建物については、家屋番号・床面積・築年月日等が、それぞれ所有者の住所・氏名・登記原因・抵当権等の内容とともに、何人にも公開されている。
したがって、他の情報に比較すると、匿名加工された不動産情報とはいっても、公開情報により所有者の住所・氏名を識別することは容易である。
識別容易であるから個人情報になるとすると、結果的にわずか数千人の特定の団体の構成員しか利用できないことになる。
ビッグデータの利活用やAIの発展・活用等を考えると、不動産取引に関する情報を個人情報として扱うことは、国家的損失と言わざるを得ない。
本誌で紹介されている韓国鑑定評価協会の広報誌によれば、韓国内においても、不動産取引情報の扱い方について問題提起されている。
それによれば、我が国と同じような情報公開のあり方に対し、住所・地番が抜けた実取引価格は、どんな不動産データとも結合できず、展示行政の見本だとして、手厳しく批判している。
詳しくは分からないが、個人情報の扱い方に厳しいアメリカでさえも、不動産取引情報のオープンデータ化は進んでいる。
一方、不動産取引情報は、これまで個人情報に該当し、一部の人間しか使えなかったが、これをどのように考えたら良いのであろうか。
個人情報の定義によれば、取引された不動産の所在・地番・地積・取引年月日・価格は、個人情報に該当するとは思えない。
しかしながら、同法2条1項では、
『他の情報と容易に照合することができ、それにより特定の個人を識別することとなるものを含む』
とされているため、一般公開されている登記情報で容易に所有者の住所・氏名を確認することができることから、不動産取引情報は個人情報に該当するといえることになる。
そうすると、不動産取引情報をビッグデータとして利活用することは、事実上不可能となる。
くどいようだが、不動産は不動産登記法により、その所在・地番・地目・地積が、建物については、家屋番号・床面積・築年月日等が、それぞれ所有者の住所・氏名・登記原因・抵当権等の内容とともに、何人にも公開されている。
したがって、他の情報に比較すると、匿名加工された不動産情報とはいっても、公開情報により所有者の住所・氏名を識別することは容易である。
識別容易であるから個人情報になるとすると、結果的にわずか数千人の特定の団体の構成員しか利用できないことになる。
ビッグデータの利活用やAIの発展・活用等を考えると、不動産取引に関する情報を個人情報として扱うことは、国家的損失と言わざるを得ない。
本誌で紹介されている韓国鑑定評価協会の広報誌によれば、韓国内においても、不動産取引情報の扱い方について問題提起されている。
それによれば、我が国と同じような情報公開のあり方に対し、住所・地番が抜けた実取引価格は、どんな不動産データとも結合できず、展示行政の見本だとして、手厳しく批判している。
詳しくは分からないが、個人情報の扱い方に厳しいアメリカでさえも、不動産取引情報のオープンデータ化は進んでいる。