空家の発生と三ない不動産の行方 ~ Vol.4
2021.10.28
VOL.04 空家の取壊しが進まないのは ~ 三ない不動産の存在

 空家が空家である理由は、売れない・貸せない・壊せないことにある。

 つまり、空家を売却しようとしても買手はいないし、またこのような建物を借りてくれる人もいない。

 不動産も見た目が9割であるから、見た目が悪い不動産には買手も借り手現れない。

 このような不動産に金をかけてもムダである。

 少子高齢化が進む限界集落にある古家を買ったり借りたりしてくれる人は、滅多に居ない。

 そして最大の問題は、このような古家の所有者は高齢者で、大半が年金暮らしである。

 取壊し費用は、田舎でも都会でもそう大きくは変わらず、前記の120㎡の古家の取壊し費用は、安く見積もっても50万円~60万円はかかると思うが、乏しい年金から取壊し費用を現金で用意できる高齢者が、どれだけいるのであろうか。

 取壊し費用を考えれば、建物を壊さず、放っておく、つまり先送りした方が負担は少ないのである。

 つまり、年間3万円の税負担としても、取壊し費用は固定資産税の約20年分にもなるのに加えて、所有者の大半は高齢者であり、20年もしないうちにいなくなるのであるから、放置するしかないのである。

 更に、地価が安いと取壊し費用の方が高くなるので、土地代にもならない。

 土地を寄付してもらっても、取壊し費用で足が出るので、引き取り手はいない。

 木造家屋でさえこのような状況にあるのであるから、これがRC造の建物になると取壊し費用は一気に増大する。

 実際、地方に行けば、更地の価格より取壊し費用の方がはるかに高いという例は、かなり見られるのである。
 需要者不在の地方にある不動産は、相続放棄されるのがオチであり、事実その例は多い。

 売れない・貸せない・壊せないという三ない不動産に、どれ程の価値があるというのか。

 固定資産税が6倍になるから空家が増えるというのは大都市圏の話であって、大半の市町村では建物を取壊した方が税負担は軽くなるのである。

 地価が高いということは需要があるということであり、空家対策も手の打ちようがあるが、前記のような三ない不動産については、お手上げである。

 空家対策は、地方と大都市では天と地ほどの差があるのであるから、法施行の機会を契機に、もう少し地に足の着いた議論を望みたいと願っている。

(2015年9月 月刊「不動産鑑定」掲載/「空家の発生と三ない不動産の行方」)

2021.10.28 17:04 | 固定リンク | 鑑定雑感
空家の発生と三ない不動産の行方 ~ Vol.3
2021.10.21
VOL.03 固定資産税における土地評価と家屋評価について

 固定資産税における土地評価は、周知のとおり、地価公示価格等の7割とされている。
 田舎の土地は、時価で3,000円/㎡位のものも珍しくはない。

仮に公示価格等を基にした土地価格の時価を3,000円/㎡とし、土地の面積を200㎡とすると、固定資産税評価額は420,000円(3,000円/㎡×0.7×200㎡)となる。

固定資産税の標準税率は1.4%であるから、これによれば小規模住宅用地の固定資産税は980円/㎡(420,000円×1/6×1.4%)となる。これが6倍になっても5,880円(年額)である。
 
他方、家屋の評価額は耐用年数を満了しても、再調達価格(新築価格)の20%が打ち止めである。

 つまり、どんな古い建物であっても、壊れていない限り、新築した場合の建築費の20%で評価される。

 但し、実際の家屋評価額は、新築時の約50%位からスタートしているので、古家の評価額は、実際建築費の10%位と思われる。

 現地に行ってみると、修理するより取壊した方が良いような家屋でも、残価率20%(実際の建築費の10%)で評価されているのが多く見られる。

 仮に、土地面積を200㎡、建物の延床面積120㎡、実際の建築費150,000円/㎡、評価割合50%とし、耐用年数を満了した古家の固定資産税額を推定すると、次のとおりとなる。

150,000円/㎡×0.5×120㎡×20%=1,800,000円

 税率を1.4%とすると、家屋の固定資産税は25,200円(1,800,000円×1.4%)となる。
空家を取壊さなければ、土地・建物の税額は26,180円(980円+25,200円)となる。
建物を壊せば、土地の固定資産税が6倍になっても5,880円であるから、固定資産税の負担という点からみれば、壊した方が合理的である。

地価が安ければ建物を壊した方が税負担が軽くなるのであるから、土地の固定資産税額が6倍になるから空家対策が進まないというのは、詭弁ということになる。

 なお、このケースでいくと、土地の課税標準額が9,000円/㎡(評価額の6分の1)であれば、建物を取壊しても取壊さなくても、税負担に差が無い分岐点となる。

 つまり、課税標準額が6倍になっても、建物を取壊した方が税負担は軽くなり、これを超えると建物を取壊すと全体の税負担は増加する。

 したがって、空家のままの方が良いのは、この例では土地の適正時価が77,000円/㎡以上の市町村にある古家ということになる。

 (建物の税額25,200円÷200㎡÷1.4%÷0.7×6=77,000円/㎡)

 建物の固定資産税評価額を100万円とすれば、建物の取壊しの分岐点となる土地の適正時価は42,900円/㎡となる。
 
  建物評価額1,000,000円×1.4%=14,000円 ~ 税額

  14,000円÷200㎡÷1.4%÷0.7×6≒42,900円/㎡

 以上からみても分かるように、建物を壊せば固定資産税が6倍になると大騒ぎしても良いのは、前記の地価水準からみると、大都市及びその周辺市町村に限られるものと思われる。

建物の取壊しと、土地・建物の税額の相対的な税負担の大小は、土地・建物の評価額との関係で決まるのであり、土地の固定資産税だけを取り上げて大騒ぎするのは、愚の骨頂である。
2021.10.21 14:18 | 固定リンク | 鑑定雑感
空家の発生と三ない不動産の行方 ~ Vol.2
2021.10.14
VOL.02 評価額と課税標準額の特例

 固定資産税は、本来的には評価額イコール課税標準額とし、それに税率を乗じて賦課される仕組みであるが、平成6年評価替から公示価格等の7割を目途に評価することとされ、そのために評価額は全国的には平均で約4倍になったと言われている。

 したがって、単純にいえば固定資産税も4倍になるが、さすがに固定資産税の大増税という訳にもいかず、なだらかに税負担を引き上げるという、いわゆる負担調整が行なわれた。

 一方、住宅用地については、一般国民の税負担力を考慮し、それまで小規模住宅用地(200㎡以下)については評価額の3分の1、200㎡を超える部分(一般住宅用地)については2分の1であったものを、前者については6分の1に、後者は3分の1に減額幅を増大させ、現在に至っている。

固定資産税が6倍になるのは、正確には小規模住宅用地、つまり200㎡以下の住宅用地だけである。

田舎の土地は300㎡位が普通であるから、この場合は 4.5倍になる。

 税負担の話をあまり単純化すると、国民に誤解を与えるだけで、有効な空家対策を考える機会を奪ってしまいはしないかと危惧している。

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