士・業同一性障害を考える ~ Vol.5
2022.08.04
VOL.05 組織規定の相違と士・業同一性障害

○○士法という名称の法律では、○○士会という名の法人組織の設立が義務化されている。

 但し、建築士法では、組織設立の義務規定はないが、構成員はあくまでも資格者個人であって、法人ではない。

 宅建業法をみると、組織設立の義務規定はなく、任意となっているが、構成員は宅建業者であり、宅地建物取引士ではない。

 また、全国を対象とする連合会の設立はできるが、その構成員は都道府県毎に設立された社団法人であり、宅建業者ではない。

 不動産の鑑定評価に関する法律をみると、組織設立の義務規定はなく、構成員に関する規定もない。

 また、連合会に関する規定もないので、構成員は地域・法人・個人を問わず、誰でもいいことになる。
 我が連合会は、法人・個人をごちゃ混ぜにした、全国を一つとした単一の組織であるから、連合会の名に値しない。

 尚、省令をみると、組織の構成員の2分の1以上は不動産鑑定業者又は不動産鑑定士個人となっているので、49%の構成員は鑑定に関係のない法人・個人でも構わないことになる。
 形式的には業者法のような資格者法のような形になっている上に、鑑定に関係のない人も構成員になれるので、その性格の曖昧さは更に増幅される。

 個人・零細業者は個人即業者のため、この性格からくる問題に気づくことは少ない。

 以上のように、実質的に業者法にもかかわらず、資格者個人が前面に押し出されているため、一般社会や不動産鑑定士個人が業者ではなく○○士法に規定される個人資格者を構成員とする団体と錯覚するのもむべなるかなと思われる。

 できうれば、他の士業や業法のように、鑑定業の位置づけをもっとハッキリさせた方が良いのではと、一人気をもんでいる。(個人的にはどちらでも構わないが・・・)

 事実上、業者団体であるにもかかわらず、不動産鑑定士協会と名乗るのは、士・業同一性障害を端的に表わしているのではと思われる。

 一方、宅建業界も宅地建物取引主任者から宅地建物取引士となったことから、我が協会にならって宅地建物取引士協会と名称変更するのであろうか。

 制度上の問題はともかくとして、鑑定評価は科学ではなくその行為の本質は委任である。

 誰がやっても同じ答えになるはずもないのに、同じ答えになるならば請負業であると勝手に解釈し、入札が横行している。

 問題が起きれば、会社の立場とは関係なく、個人責任が追及される。

 いずれにしても、鑑定業務がこれ程広く社会に浸透しているのであるから、将来的には不動産鑑定士法に改編してもらいたいと願うばかりである。

 そうでなければ、今後ともある時は業者、ある時は不動産鑑定士個人責任と、発注者・依頼者にとって都合のいいようにあしらわれ、士・業同一性障害は続くことになる。

 関係各位の努力を期待したい。
 

(2018年5月 傍目八目掲載/「士・業同一性障害を考える」)

2022.08.04 09:01 | 固定リンク | 鑑定雑感
士・業同一性障害を考える ~ Vol.4
2022.07.28
VOL.04 訴訟鑑定と不動産の鑑定評価に関する法律

財産分与や交換価値、地代・家賃の増減額等、訴訟分野において不動産鑑定士が活用されているのは、喜ばしいことである。

 しかし、裁判所から依頼された鑑定人、不動産鑑定士としては、色々な問題があると考える。

 これは、司法競売評価における評価人も同じである。

 まず、鑑定人として依頼されるのは個人であり、業者ではない。

 鑑定人として宣誓するのは、あくまでも個人であり、業者ではない。

 しかし、鑑定評価書の発行権限は業者にある。

 業者の管理・監督を離れ、資格者個人が一人で裁判所に行って業務を受託することはあり得ない。

 訴訟鑑定も、不動産の鑑定評価に関する法律の適用対象になるとすると、資格者個人名で評価書や意見書等を提出することは許されない。

 一方、裁判所からすると、業者に鑑定を依頼しているという意識はない。
 鑑定人はあくまでも自然人たる個人である。

 また、実際に公認会計士個人名による不動産鑑定評価書も見たことがあるが、個人として依頼されたら、業法違反だから受託できないと拒絶すべきなのであろうか。
 不動産鑑定士以外の資格者や専門家個人に鑑定意見を求めているケースは相当数見られるが、業者として鑑定意見を提出したケースは寡聞にして知らない。

 とすると、民事訴訟法上、鑑定人として意見を述べたり鑑定意見書を提出することは、不動産の鑑定評価に関する法律との関係上、どのように解すべきなのか、今もって良く分からない。

 訴訟鑑定における鑑定評価も、ガイドラインに沿ったものでなければならないとすると、鑑定人に選任された不動産鑑定士は、業者の代表者を通じて裁判所に対して業務の依頼書・確認書の取り交しを要求しなければならないことになる。

 また、監督者である国交省は、裁判所の選任した鑑定人たる不動産鑑定士に対し、司法判断とは関係なく指導・監督することになるのであろうか。

 更に踏み込むと、裁判所の容認した鑑定結果に対し、原告又は被告は、国交省に対しその当・不当を申立てすることができるのであろうか。

 不動産の鑑定評価に関する法律は、民事訴訟法の特別法とするなら、民事訴訟法とは無関係に鑑定結果の当・不当を国交省や連合会が決することができることになるが、そうであれば裁判所の選任による鑑定は、意味をなさないことになる。

 仮に鑑定結果を採用するとしても、あらかじめ国交省や連合会の審査を経た後でなければ採用できず、またそうしなければ鑑定に基づいた判決が意味をなさないことにもなりかねない。

 訴訟鑑定における鑑定人とは、鑑定の手続きによって取り調べを受け、意見を供述する第三者ということになるが、鑑定人業法という法律がないので、この場合の第三者に法人が含まれるのか、含まれるとすれば、選任後に法人代表者が変更された場合は、変更後の代表者が鑑定人になるのか、疑問は尽きない。

 いずれにしても、士法なのか業者法なのかの性格が必ずしも判然としないため、議論が混乱しているようにも思われる。
2022.07.28 11:28 | 固定リンク | 鑑定雑感
士・業同一性障害を考える ~ Vol.3
2022.07.21
VOL.03 不動産鑑定評価と鑑定評価書発行の権限

 鑑定評価は不動産鑑定士のみが行えるが、業者登録しなければ、評価書の発行ができない。

 したがって、評価書の発行権限は、業者の代表者にあることになる。

 ところで、資格者個人の意見と判断を表明した評価書の取扱いの最終権限は業者の代表者となるが、国土法施行令第9条の地価調査や固定資産評価基準における標準宅地については、不動産鑑定士の鑑定評価を求め・・・と規定されており、業者の発行する鑑定評価書という文言は見当たらない。
 
 地価公示法では、不動産の鑑定評価に関する法律の適用除外規定があるため、評価書の発行権限は、資格者個人にあることになる。

 しかし、それ以外の法律や固定資産評価については、特に除外規定がないので、同法の適用対象となる。

 前記の地価調査は、除外規定がないにも関わらず、長らく個人名で評価書を発行してきた経緯がある。
 10年位前から(記憶が定かではないが)業者名を記載するようになったが、様式は地価公示と同じであるので、厳密にいうと法律的には問題があると考える。

 また、固定資産評価における標準宅地の鑑定評価も同法の適用対象となるので、ガイドラインに完全には準拠していない現行様式は、問題になると思われる。

 相続税評価における標準宅地の鑑定評価書の様式も、同じ問題を抱えている。

 仮に、一般からの依頼に対し、総務省や国税の標準様式を使用して評価書を発行したら、一体どういう問題が生じるのであろうか。

 これらの様式を利用した評価書の発行は一切認めないという根拠規定があるのかどうか分からないが、他の省庁が示した様式は、著作権が国にあるので使用してはならないということになるのかなとも考えられる。

 いずれにしても、不動産鑑定士という言葉が独り歩きしているため、不動産鑑定士は士業と誤解しているケースが多く見られる。
 
 事実、他の士業団体の人に、不動産鑑定士は業者法内の資格者であり、宅地建物取引士と同じですと言ったら驚いていたことを思い出すのである。

 ある時は士業、ある時は業者と立場を使い分け?、あるいは分からないため、発注者からは業者として扱われ、問題が起きると個人責任が問題にされる。

 個人業者は、業者イコール資格者個人のため、特に区別ができないでいる。

 そのため、問題が起きると余計に混乱することになる。
2022.07.21 10:20 | 固定リンク | 鑑定雑感

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