拝啓 裁判官の皆様 鑑定は科学ではありません!! ~ Vol.3
2022.11.10
VOL.03 最高裁判決
原審は、適正な対価なくして処分したことになるとして、損害賠償を認容しました。
A市長はこれを不服として上告したものです。
最高裁は、
「鑑定評価額を踏まえた上で、本件譲渡が適正な対価によらずにされたものであったとしても、これを行う必要性と妥当性についても審議されており、本件譲渡が適正な対価によらないものであることを前提として審議された上これを行うことを認める趣旨でされたものと評価することができるから、本件譲渡議決をもって議会の議決があったということができる。」
とし、
「A市長が裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用したことをうかがわせる事情は存しない。
したがって、本件譲渡に財務会計法規上の義務に違反する違法はなく、A市長は本件譲渡に関して市に対する損害賠償責任は負わないというべきである。」
と判示しました。
さて、鑑定評価額の約半値で売却したことが問題とされましたが、2回目の鑑定評価時点に依頼を受けた不動産鑑定士は、この間の市有地の売却の経緯等について、担当者から十分に説明を受けていたのでしょうか。
平成20年10月1日の鑑定評価格17,000円/㎡で売れなかったため、平成22年9月には12,641円/㎡と約26%の値下げをしましたが、同月独自試算によりさらに7,364円/㎡と約42%の値下げを行っています。
それでも売れなかったため、平成23年10月に再鑑定を行いましたが、驚くなかれ、担当不動産鑑定士は7億1300万円(平方メートル当たり11,500円)という鑑定評価を行っているのです。
1年前に7,364円/㎡でも売れなかったという事情が分かった上で鑑定評価を行ったとすれば、発注者と担当不動産鑑定士との間で何らかの事情があったと推測する他はありません。
仮に何もなかったとすれば、不動産鑑定士としての能力に疑問符がつきはしないでしょうか。
それはともかく、鑑定価格ではどうしようもないと思った市は、独自に試算し、売却予定価格を5,448円/㎡と鑑定価格の半値以下に設定して、ようやく売却に至っています。
売却結果は5,645円/㎡と予定価格を約4%上回りましたが、それでも鑑定価格の半値です。
常識的にみれば、市の試算価格の方が適切・妥当であったというべきではと思われます。
たった一人の不動産鑑定士による鑑定結果が、かくも社会に大きな影響を与え、少なからぬ人に負担をかけたことを思えばその責任は計り知れません。
原審は、適正な対価なくして処分したことになるとして、損害賠償を認容しました。
A市長はこれを不服として上告したものです。
最高裁は、
「鑑定評価額を踏まえた上で、本件譲渡が適正な対価によらずにされたものであったとしても、これを行う必要性と妥当性についても審議されており、本件譲渡が適正な対価によらないものであることを前提として審議された上これを行うことを認める趣旨でされたものと評価することができるから、本件譲渡議決をもって議会の議決があったということができる。」
とし、
「A市長が裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用したことをうかがわせる事情は存しない。
したがって、本件譲渡に財務会計法規上の義務に違反する違法はなく、A市長は本件譲渡に関して市に対する損害賠償責任は負わないというべきである。」
と判示しました。
さて、鑑定評価額の約半値で売却したことが問題とされましたが、2回目の鑑定評価時点に依頼を受けた不動産鑑定士は、この間の市有地の売却の経緯等について、担当者から十分に説明を受けていたのでしょうか。
平成20年10月1日の鑑定評価格17,000円/㎡で売れなかったため、平成22年9月には12,641円/㎡と約26%の値下げをしましたが、同月独自試算によりさらに7,364円/㎡と約42%の値下げを行っています。
それでも売れなかったため、平成23年10月に再鑑定を行いましたが、驚くなかれ、担当不動産鑑定士は7億1300万円(平方メートル当たり11,500円)という鑑定評価を行っているのです。
1年前に7,364円/㎡でも売れなかったという事情が分かった上で鑑定評価を行ったとすれば、発注者と担当不動産鑑定士との間で何らかの事情があったと推測する他はありません。
仮に何もなかったとすれば、不動産鑑定士としての能力に疑問符がつきはしないでしょうか。
それはともかく、鑑定価格ではどうしようもないと思った市は、独自に試算し、売却予定価格を5,448円/㎡と鑑定価格の半値以下に設定して、ようやく売却に至っています。
売却結果は5,645円/㎡と予定価格を約4%上回りましたが、それでも鑑定価格の半値です。
常識的にみれば、市の試算価格の方が適切・妥当であったというべきではと思われます。
たった一人の不動産鑑定士による鑑定結果が、かくも社会に大きな影響を与え、少なからぬ人に負担をかけたことを思えばその責任は計り知れません。
拝啓 裁判官の皆様 鑑定は科学ではありません!! ~ Vol.2
2022.11.02
VOL.02 経緯
市有地売却までの経緯をみると、平成10年に62,000.43㎡の市有地において宅地造成事業を開始したが、需要が少ないという理由で平成15年に同事業を廃止。
その後平成17年に工業用地に転換する事業計画を立てたが、その事業も実現しなかった。
市は平成20年2月に本件土地を住宅地にする計画を表明し、平成20年10月1日を価格時点とした鑑定評価額10億5,400万円(平方メートル当たり17,000円)と同額を予定価格として公表し、一般競争入札に付したが、申込みをした者はいなかった。
同年11月14日に再度予定価格を非公表とした一般競争入札を実施したが、申込をした者はいなかった。
市は平成22年秋に、本件土地の一部についてでも買受けの応募があれば売払い可能となるようにするため、応募者から土地利用計画等の事業実施に係る提案を受け、これを審査して事業者を選定する、いわゆるプロポーザル方式による3回目の売却を実施した。
一方、市は平成22年9月議会で、本件土地を一括ではなく4万㎡以上を購入するという条件で、購入を希望する面積及び価格の提示を受けること、予定価格は非公表とすること、プロポーザル方式によって相手方を選定する方針であることについて説明。
同市の不動産評価審議会は、平成22年9月、本件土地の現在の価格として、その評価額を4万㎡につき5億0566万円、平方メートル当たり12,641円とした。
ちなみにこの価格は、鑑定価格より約26%低い。
市は、同月30日、予定価格を非公表としてプロポーザル方式により事業実施者を公募し、同年10月18日、本件土地が大規模でかつ近隣に類似する適切な取引事例が存在しないとして、取引事例比較法による比準価格を採用せず、事業実施者が本件土地の造成・販売に要する期間を考慮して、5年後の価格を予測することとしてその予定価格を4億5657万1166円(4万㎡につき2億9458万円)、平方メートル当たり7,364円と定めた。(この価格は鑑定評価格より約57%低い)
平成22年10月26日、公募により1社からの応募があったが、購入を希望する面積は4万㎡、価格は2億5800万円で、予定価格を約12.4%下回っていた。
その頃、本件土地に近い大手企業の社宅跡地が売却され、宅地化されるという報道があり、前記の応募会社は同年11月24日応募を撤回した。
市は、本件土地について、再度不動産鑑定を行い、平成23年10月1日を価格時点とする鑑定評価額7億1300万円(11,500円/㎡)の鑑定評価書の提出を受け、同年11月4日の不動産評価審議会は、予定価額を鑑定評価額と同額とした。(この価格は、前年の応募価格6,450円/㎡より約78%高い)
市は、同年11月8日、議員全員協議会において、4回目の売却手続きを行うことを説明した。
その後、平成23年11月9日、売払最低面積4万㎡、予定価格を非公表として、プロポーザル方式により事業実施者を公募し、同月18日に前回とほぼ同様の理由で、不動産評価審議会の予定価額より低い3億3777万8342円(平方メートル当たり5,448円)と定めた。
E社とA社は平成23年11月25日、共同で本件土地全体を3億5000万円で買受け、宅地及び施設用地とするという内容で応募したが、他に応募者はいなかった。
A市長は、平成23年12月5日、前記会社と条例による議会の議決を得ることを停止条件として、3億5000万円で売却するという仮契約を締結した。
市は、平成23年12月8日、議員全員協議会においてこれらの経緯を説明し、平成23年12月12日に市議会に提出した。
市議会は、生活環境委員会に審議を付託した。
市は、鑑定評価額が7億円であること、予定価格が3億3777万8342円であることを説明し、同委員会は本件議案を可決する議決をした。
平成23年12月15日の本会議において、鑑定評価格は1坪当たり3万8000円(11,500円/㎡)であるのに、本件における譲渡価格は坪当たり1万8000円(5,445円/㎡)になるなどの発言があった。
決算特別委員会は、本決算を不認定としたものの、平成24年12月14日の本会議において、本件譲渡による収入3億5000万円を含め、本件決算を認定する議決を行った。
以上、経緯を判決より引用しましたが、問題は、鑑定評価額の半値以下で処分したことが適正な対価なくして処分したことになるのかどうかです。
市有地売却までの経緯をみると、平成10年に62,000.43㎡の市有地において宅地造成事業を開始したが、需要が少ないという理由で平成15年に同事業を廃止。
その後平成17年に工業用地に転換する事業計画を立てたが、その事業も実現しなかった。
市は平成20年2月に本件土地を住宅地にする計画を表明し、平成20年10月1日を価格時点とした鑑定評価額10億5,400万円(平方メートル当たり17,000円)と同額を予定価格として公表し、一般競争入札に付したが、申込みをした者はいなかった。
同年11月14日に再度予定価格を非公表とした一般競争入札を実施したが、申込をした者はいなかった。
市は平成22年秋に、本件土地の一部についてでも買受けの応募があれば売払い可能となるようにするため、応募者から土地利用計画等の事業実施に係る提案を受け、これを審査して事業者を選定する、いわゆるプロポーザル方式による3回目の売却を実施した。
一方、市は平成22年9月議会で、本件土地を一括ではなく4万㎡以上を購入するという条件で、購入を希望する面積及び価格の提示を受けること、予定価格は非公表とすること、プロポーザル方式によって相手方を選定する方針であることについて説明。
同市の不動産評価審議会は、平成22年9月、本件土地の現在の価格として、その評価額を4万㎡につき5億0566万円、平方メートル当たり12,641円とした。
ちなみにこの価格は、鑑定価格より約26%低い。
市は、同月30日、予定価格を非公表としてプロポーザル方式により事業実施者を公募し、同年10月18日、本件土地が大規模でかつ近隣に類似する適切な取引事例が存在しないとして、取引事例比較法による比準価格を採用せず、事業実施者が本件土地の造成・販売に要する期間を考慮して、5年後の価格を予測することとしてその予定価格を4億5657万1166円(4万㎡につき2億9458万円)、平方メートル当たり7,364円と定めた。(この価格は鑑定評価格より約57%低い)
平成22年10月26日、公募により1社からの応募があったが、購入を希望する面積は4万㎡、価格は2億5800万円で、予定価格を約12.4%下回っていた。
その頃、本件土地に近い大手企業の社宅跡地が売却され、宅地化されるという報道があり、前記の応募会社は同年11月24日応募を撤回した。
市は、本件土地について、再度不動産鑑定を行い、平成23年10月1日を価格時点とする鑑定評価額7億1300万円(11,500円/㎡)の鑑定評価書の提出を受け、同年11月4日の不動産評価審議会は、予定価額を鑑定評価額と同額とした。(この価格は、前年の応募価格6,450円/㎡より約78%高い)
市は、同年11月8日、議員全員協議会において、4回目の売却手続きを行うことを説明した。
その後、平成23年11月9日、売払最低面積4万㎡、予定価格を非公表として、プロポーザル方式により事業実施者を公募し、同月18日に前回とほぼ同様の理由で、不動産評価審議会の予定価額より低い3億3777万8342円(平方メートル当たり5,448円)と定めた。
E社とA社は平成23年11月25日、共同で本件土地全体を3億5000万円で買受け、宅地及び施設用地とするという内容で応募したが、他に応募者はいなかった。
A市長は、平成23年12月5日、前記会社と条例による議会の議決を得ることを停止条件として、3億5000万円で売却するという仮契約を締結した。
市は、平成23年12月8日、議員全員協議会においてこれらの経緯を説明し、平成23年12月12日に市議会に提出した。
市議会は、生活環境委員会に審議を付託した。
市は、鑑定評価額が7億円であること、予定価格が3億3777万8342円であることを説明し、同委員会は本件議案を可決する議決をした。
平成23年12月15日の本会議において、鑑定評価格は1坪当たり3万8000円(11,500円/㎡)であるのに、本件における譲渡価格は坪当たり1万8000円(5,445円/㎡)になるなどの発言があった。
決算特別委員会は、本決算を不認定としたものの、平成24年12月14日の本会議において、本件譲渡による収入3億5000万円を含め、本件決算を認定する議決を行った。
以上、経緯を判決より引用しましたが、問題は、鑑定評価額の半値以下で処分したことが適正な対価なくして処分したことになるのかどうかです。
拝啓 裁判官の皆様 鑑定は科学ではありません!! ~ Vol.1
2022.10.27
VOL.01 拝啓 裁判官の皆様
日頃より、裁判所において不動産鑑定士のご活用を頂き、誠に有り難く感謝申し上げます。
さて、不動産鑑定評価について、過大なご期待、あるいは誤解があるのではと思われるケースを目にしましたので、勝手に思うところを述べたいと思います。
平成30年11月、最高裁第三小法廷において、広島県O市における市有地の売却に関する判決が出されました。
この事件は、市有財産を鑑定評価額の約半値で処分したことの是非を巡る争いでした。
日頃より、裁判所において不動産鑑定士のご活用を頂き、誠に有り難く感謝申し上げます。
さて、不動産鑑定評価について、過大なご期待、あるいは誤解があるのではと思われるケースを目にしましたので、勝手に思うところを述べたいと思います。
平成30年11月、最高裁第三小法廷において、広島県O市における市有地の売却に関する判決が出されました。
この事件は、市有財産を鑑定評価額の約半値で処分したことの是非を巡る争いでした。