不動産鑑定士はエスパー!! Vol.5
2020.05.14
VOL.05 不動産鑑定士はエスパー!!

 以上のように、不動産鑑定士が土地・建物・土木・法律・金融・経済・税制等の全ての分野にわたって各分野の専門家と互角にわたりあうことは不可能である。

 不動産鑑定士の専門性と言ったところで、その程度はたかがしれている。
 自虐的かもしれないが、つくづくそう思う今日この頃である。

 ERの研修から思い起こしたが、ERでさえその使用は自己責任でと逃げを打ち、更に提供された情報を基礎とし、かつその情報の正確性に関しては明示・黙示の保証を一切しないと明言している。
 その他にも免責条項を設け、説明責任は負うが結果責任は負わないとしている。

 これだけの限定条件つきのERを、不動産鑑定士が独自に精査し足りない調査をやれというのであるから、ただただ呆れるだけである。
 ERのガイドラインの言葉を借りれば、不動産鑑定士も提供された情報に基づいて判断するだけで提供されたERの正確性や十分性について精査する必要はないと、どうして言えないのであろうか。
 仮に言えないとすれば、ER作成者以上の専門的能力が不動産鑑定士にあると思っているのであろうか。

 いずれにしても、全国約6000名の会員の90%以上は、証券化不動産の評価をする機会に巡り会うことはないであろう。

 他方、証券化不動産の評価の機会の多い人は、競売や固定資産税評価、訴訟鑑定、地代、家賃、農地、山林の評価に巡り会う機会は極めて少ないものと思われる。
 とすれば、基準が不動産鑑定士に要求する各種の専門的能力を体得する機会は極めて少ないと言わざるを得ない。
 したがって、全ての分野の評価を一人の不動産鑑定士が対応できると考えることには無理があると言わざるを得ない。
 もし協会指導部が全てできると考えているのなら、まさしく不動産鑑定士は全能の神であり、エスパー(超能力者)とでも言わなければならないことになる。

 個人事務所の不動産鑑定士としては何10年やっても解らないことばかりである。

 証券化不動産の評価依頼がきても、ERの精査をする能力をどうやって体得すればよいのであろうか。
 また、下請け仕事に追いまくられている個人事務所に、その時間はあるのであろうか。

 不動産鑑定士の大半が全ての分野についてその道の専門家と互角にわたりあえる能力が必要とされるのなら、筆者は失格である。
 全ての評価を体得できる鑑定事務所が存在するのかどうかは知らないし、少なくとも筆者の知る範囲では存在しない。

 残された時間は少なく、仕事も少なく、気力も少なく、体力も少なく、言葉は足りないが口数だけは多くなる今日この頃、少なくともエスパーとなる能力は持ち合わせていないと断言できる。

 複雑・多様な時代には、資格制度も評価分野別にランク分けされる日が近いのかもしれない。
 不動産鑑定士は何でもできるエスパーかもしれないと錯覚してきた古き良き時代は、もうすぐ過ぎ去るのかもしれない。

 いずれにしても、国民の理解が得られない資格はやがて消えてしまうのであろう。

(2007年11月 Evaluation no.27掲載)

2020.05.14 14:33 | 固定リンク | 鑑定雑感
不動産鑑定士はエスパー!! Vol.4
2020.05.07
VOL.04 鑑定評価の専門性について

 鑑定評価は、専門家の仕事であることに疑いはないものと考える。
 しかし、以上を見ると何が専門なのか解らなくなってしまう。
 鑑定評価に必要とされる個別の分野毎に見ると、不動産鑑定士はとても専門家とはいえない。
 悪く言えば、雑学の大家?とでも言うべきなのであろう。
 筆者も含めて、各分野毎にその道の専門家と互角に立ち向える不動産鑑定士は一体どの位いるのであろうか。

 一般の不動産鑑定士にとって、各分野の全てにわたってエキスパートになることはできない。
 各分野について1年ずつみっちり勉強しても、20~30年位かかるであろうし、その勉強をしている間に昔の勉強は忘れるし、世の中はどんどん変化し知識も陳腐化する。

 したがって、本当の専門家になるためには、一つの分野について数10年単位の経験が必要と思われる。

 現在の鑑定業界の中では、評価に必要な各分野について相当の経験を積むということは、ほとんど不可能であることは前述のとおりである。
 また、入札により数万円で大量の評価をするような状況下では、とても国民に尊敬されるような仕事はできない。

 昨今は裁判所でも公認会計士に不動産鑑定をさせているケースもある他、デューデリジェンス業務等は不動産業者や土地家屋調査士等も行なっている。
 世の中は別に不動産鑑定士でなくても依頼者の注文に沿った仕事ができれば誰でもいいと考えているようである。
 
 これらの状況をよくよく考えると、鑑定評価の専門性は他の専門職種に比較すると極めて低いということが実感される。
 将来取引事例がアメリカのようにマーケットデータブックとして誰でも入手できるようになれば、経済学者や数学者が鑑定評価をするような時代がくるかもしれない。
 もしそういう時代が来たら、資格は何の意味も持たない。
 取引事例の呪縛から解き放たれた時、我々に一体どのような専門性が残されるというのであろうか。
2020.05.07 13:33 | 固定リンク | 鑑定雑感
不動産鑑定士はエスパー!! Vol.3
2020.04.30
VOL.03 鑑定評価に必要とされる知識・経験について

鑑定評価の内容は、物理的なものから法律的なものまで多岐にわたっている。

 土地の評価に当っては、土木・測量・地質学・供給処理施設等に関する基本的な知識(座学)の他に、ある程度の現場経験(実学)、建物の評価に当っては、建築一般(木造・非木造・構造・特殊用途等)、建築法規、外構工事関係、搬送機、給排水設備、空調機器、消防設備、通信設備、解体工事等の基本的知識(座学)と、ある程度の現場経験(実学)が必要である。
 また、これ以外にも借地権のような権利の評価や賃料評価に当っては、民法等の司法に関する知識も必要である。

 公的評価関係では、固定資産税評価が一番難しい。

 標準宅地の鑑定評価は通常の鑑定評価であるから問題はないが、状況類似地域の区分から各筆評価までの一連の流れとその問題点を良く理解している不動産鑑定士は少ない。

 競売評価については全国で約1300人が従事しているが、その割合は全会員数の約20%である。
 約80%の不動産鑑定士は競売評価を経験する機会はほとんどないが、なんと東京ではもっと厳しく、東京の会員の約97%はその機会がない。
 また、大都市に居住する不動産鑑定士は純農地や純山林を評価する機会は、ほとんどないであろう。

 ところで、農地といっても水田・畑・果樹・牧場等に分類されるが、畑にいたっては作物の種類によっても収益性は大きく変化する。
 したがって、農地を評価しようとすれば、農作物全般の知識・土壌の知識等が必要となる。

 山林についても同様である。

 カラ松のようなチップの原料にしかならないものから、杉・桧のような価値の高い林木まで色々である。
 立木の種類や立木の量を把握することも大変である。
 林地の評価方法や林地の良し悪しを判断する為の土壌の知識も必要である。
 その他にも多様な知識・経験が必要と思われるケースは極めて多いが、その全てを経験することはほとんどできないものと考える。
2020.04.30 15:26 | 固定リンク | 鑑定雑感

- CafeLog -