鑑定業界と相互不信社会 Vol.3
2020.06.04
VOL.03 個人情報保護法と相互信頼
不動産鑑定士という職業の認知度は、以前よりは格段に上がったが、その反面業務を取巻く環境は厳しくなった。
公的評価に関して特に調査権のない不動産鑑定士にとって、情報収集はこれまで以上に気を遣う業務となった。
これまでは、情報の収集と管理は地価公示評価員を中心とする、所謂仲間内の相互信頼の中で行なわれてきた。
しかしながら、地価公示評価員は会員総数の半分にも満たず、更に地価調査にいたっては、地元の会員以外は担当することがない現状にあっては、会員相互の信頼は夢のまた夢となりつつある。
時代の流れとあらばしかたないとあきらめるしかないと思うが、個人情報保護法によって我が業界はあらためて鑑定業並びに公的評価における社会的役割とそのあり方等について根本的に考え直さなければならない時が来たと思わざるを得ない。
個人情報保護法が施行された現在、個人情報の闇雲な保護を口実に大半の個人情報が入手できない状況になっている。
本来、同法は公益性と私的利用のバランスを目指したものと理解していたが、末端の役所や個人レベルでは、とにかく個人情報であれば何でもかんでも開示できないという風潮が一般化しつつある。
このような社会の流れに対して、我が業界は公的評価の公益性から不動産鑑定士の果すべき役割と、それに伴って必要となる個人情報の収集・調査等に関して広く社会に対し何の提言もしていないのは、実に嘆かわしいことである。
不動産鑑定士という職業の認知度は、以前よりは格段に上がったが、その反面業務を取巻く環境は厳しくなった。
公的評価に関して特に調査権のない不動産鑑定士にとって、情報収集はこれまで以上に気を遣う業務となった。
これまでは、情報の収集と管理は地価公示評価員を中心とする、所謂仲間内の相互信頼の中で行なわれてきた。
しかしながら、地価公示評価員は会員総数の半分にも満たず、更に地価調査にいたっては、地元の会員以外は担当することがない現状にあっては、会員相互の信頼は夢のまた夢となりつつある。
時代の流れとあらばしかたないとあきらめるしかないと思うが、個人情報保護法によって我が業界はあらためて鑑定業並びに公的評価における社会的役割とそのあり方等について根本的に考え直さなければならない時が来たと思わざるを得ない。
個人情報保護法が施行された現在、個人情報の闇雲な保護を口実に大半の個人情報が入手できない状況になっている。
本来、同法は公益性と私的利用のバランスを目指したものと理解していたが、末端の役所や個人レベルでは、とにかく個人情報であれば何でもかんでも開示できないという風潮が一般化しつつある。
このような社会の流れに対して、我が業界は公的評価の公益性から不動産鑑定士の果すべき役割と、それに伴って必要となる個人情報の収集・調査等に関して広く社会に対し何の提言もしていないのは、実に嘆かわしいことである。
鑑定業界と相互不信社会 Vol.2
2020.05.28
VOL.02 取引事例収集の方法と法的根拠
取引事例収集にあたって不動産鑑定士にどうしても必要なのは、法務局から市町村役場に送付される異動通知である。
異動通知は戦後の台帳一元化に伴って法務局から市町村役場の固定資産税課に通知される土地・建物の所有権の移動・分合筆・新増築・取壊し等の情報であり、固定資産税課ではこれを基礎に課税客体の把握を行なっている。
この異動通知を見れば、売買を原因とする所有権の移動状況は一目瞭然である。
しかし、現行の鑑定業法(宅建業法とほぼ同じ法律構成になっているのに、鑑定評価に関する法律などという法の本質が不明な名称のため、ここでは鑑定業法と称することにする)では、異動通知を閲覧する権利は何も定められていないが、鑑定業法は業者法であって資格者法ではないので、至極当然と言えば当然のことである。
つまり、加入・脱退が自由な団体では私的自治の完徹ができないので、法律上特別な扱いはできないということであると考えられる。
では何故、これまで当然の如く異動通知を閲覧し、事例収集を行なってこれたのか、である。
それは、地価公示・地価調査があったからである。
つまり、我が業界は、地価公示や地価調査を通して事例の収集を行ない、それを協会に集約し、地価公示・地価調査に従事していない、つまり事例収集をしない会員にも閲覧させてきたのである。
しかしながら、このことをよくよく考えてみると、地価公示法には資料収集等に関する調査権の法律的根拠は見当らず、また、協会が当然の如く地価公示評価員から地価公示等の作業に関連して収集した取引事例を提出させ得る法律上の根拠も見当らない。
協会と地価公示評価員の間には、直接的な指揮命令関係にはないため、地価公示評価員に対して事例の提出を命ずることはできない。
地価調査は、協会本部との直接契約が少ないため、特にこのことが明瞭である。
つまり、地方の協会では、地方協会の会員以外には取引事例等を閲覧させないという状況が生じているものの、協会本部は地方協会に対して会員の閲覧権を強要したり、地価調査で収集した資料を協会本部に提出せよとは言えない。
契約の主体が異なるのであるから、当然のことである。
しかしそうは言っても、資料は不動産鑑定士の生命線であり、共同利用は避けられない。
結局のところ、資料収集のあり方を会員全体の問題として考えてこなかったことが、問題を根深くしていると考える。
ところで、地価公示法をよく見ると、地価公示評価員の調査権に言及しているのは同法第22条の標準地への立入り調査だけである。
尚、地価公示を補完する形で『標準地の鑑定評価の基準に関する省令』があるが、資料の収集に関する同法第5条をみると、そこには
標準地の鑑定評価にあたっては、これに必要とされる資料(取引事例・地代事例等)を適切かつ十分に収集しなければならない
としているだけで、資料収集に必要な調査権限の定めはない。
地価調査は国土利用計画法施行令第9条で基準地の価格を判定するために不動産鑑定士の鑑定評価を求めるものとされているだけで、基準地の鑑定評価に必要な資料の収集のための調査権限に言及している条文は見当らない。
しかも、もっと驚くべきことは、地価公示法では第26条で鑑定業法の除外規定があるのに、国土法にはその規定がないことである。 ということは、地価調査は鑑定業法の対象となるというこである。
つまり、鑑定評価書は鑑定業者に発行権限があるということであるから、現在のように資格者個人名で発行していることには疑問符がつくことになる。
いずれにしても、地価公示・地価調査にあたって異動通知の閲覧を市町村に対して当然の如く請求できるという法的根拠は見当らない。
ならば何故今までは可能だったかと言えば、個人的な感想ではあるが、業務の公益性と実施主体である上級官庁の下級官庁に対する優越的地位の行使にあったと考えざるを得ない。この矛盾が大きくクローズアップされたのは、個人情報保護法の制定である。
取引事例収集にあたって不動産鑑定士にどうしても必要なのは、法務局から市町村役場に送付される異動通知である。
異動通知は戦後の台帳一元化に伴って法務局から市町村役場の固定資産税課に通知される土地・建物の所有権の移動・分合筆・新増築・取壊し等の情報であり、固定資産税課ではこれを基礎に課税客体の把握を行なっている。
この異動通知を見れば、売買を原因とする所有権の移動状況は一目瞭然である。
しかし、現行の鑑定業法(宅建業法とほぼ同じ法律構成になっているのに、鑑定評価に関する法律などという法の本質が不明な名称のため、ここでは鑑定業法と称することにする)では、異動通知を閲覧する権利は何も定められていないが、鑑定業法は業者法であって資格者法ではないので、至極当然と言えば当然のことである。
つまり、加入・脱退が自由な団体では私的自治の完徹ができないので、法律上特別な扱いはできないということであると考えられる。
では何故、これまで当然の如く異動通知を閲覧し、事例収集を行なってこれたのか、である。
それは、地価公示・地価調査があったからである。
つまり、我が業界は、地価公示や地価調査を通して事例の収集を行ない、それを協会に集約し、地価公示・地価調査に従事していない、つまり事例収集をしない会員にも閲覧させてきたのである。
しかしながら、このことをよくよく考えてみると、地価公示法には資料収集等に関する調査権の法律的根拠は見当らず、また、協会が当然の如く地価公示評価員から地価公示等の作業に関連して収集した取引事例を提出させ得る法律上の根拠も見当らない。
協会と地価公示評価員の間には、直接的な指揮命令関係にはないため、地価公示評価員に対して事例の提出を命ずることはできない。
地価調査は、協会本部との直接契約が少ないため、特にこのことが明瞭である。
つまり、地方の協会では、地方協会の会員以外には取引事例等を閲覧させないという状況が生じているものの、協会本部は地方協会に対して会員の閲覧権を強要したり、地価調査で収集した資料を協会本部に提出せよとは言えない。
契約の主体が異なるのであるから、当然のことである。
しかしそうは言っても、資料は不動産鑑定士の生命線であり、共同利用は避けられない。
結局のところ、資料収集のあり方を会員全体の問題として考えてこなかったことが、問題を根深くしていると考える。
ところで、地価公示法をよく見ると、地価公示評価員の調査権に言及しているのは同法第22条の標準地への立入り調査だけである。
尚、地価公示を補完する形で『標準地の鑑定評価の基準に関する省令』があるが、資料の収集に関する同法第5条をみると、そこには
標準地の鑑定評価にあたっては、これに必要とされる資料(取引事例・地代事例等)を適切かつ十分に収集しなければならない
としているだけで、資料収集に必要な調査権限の定めはない。
地価調査は国土利用計画法施行令第9条で基準地の価格を判定するために不動産鑑定士の鑑定評価を求めるものとされているだけで、基準地の鑑定評価に必要な資料の収集のための調査権限に言及している条文は見当らない。
しかも、もっと驚くべきことは、地価公示法では第26条で鑑定業法の除外規定があるのに、国土法にはその規定がないことである。 ということは、地価調査は鑑定業法の対象となるというこである。
つまり、鑑定評価書は鑑定業者に発行権限があるということであるから、現在のように資格者個人名で発行していることには疑問符がつくことになる。
いずれにしても、地価公示・地価調査にあたって異動通知の閲覧を市町村に対して当然の如く請求できるという法的根拠は見当らない。
ならば何故今までは可能だったかと言えば、個人的な感想ではあるが、業務の公益性と実施主体である上級官庁の下級官庁に対する優越的地位の行使にあったと考えざるを得ない。この矛盾が大きくクローズアップされたのは、個人情報保護法の制定である。
鑑定業界と相互不信社会 Vol.1
2020.05.21
VOL.01 個人情報保護法施行以前の鑑定業界
個人情報の取扱いがこうまで神経質にならなくても良かった個人情報保護法以前の社会は、ある意味で居心地が良かった。
つまり、鑑定評価に必要な情報、特に取引事例・賃貸事例等は個人情報の固まりであるが、不動産鑑定士同士の間では情報交換の重要性等から事例交換等は当り前のことであったからである。
事例収集がいかに大変で手間暇のかかるものかは、事例収集等を行なった者しか解らないであろう。
特に地方では、不動産業者等もおらず、売却希望物件がメディア等に掲載されることもないので、情報収集はまさに足で稼いでいくらという時代であった。
それ故に、情報の貴重さ、情報入手の苦労等が共感できたため、資格者同士お互い助け合って業務を実施してきたのである。
貴重な情報であるが故に、その取扱いは慎重であったし、相互信頼の絆が固かったからこそ取引事例等の個人情報の取扱いに特に神経質になることもなかたっと考えている。
個人情報の取扱いがこうまで神経質にならなくても良かった個人情報保護法以前の社会は、ある意味で居心地が良かった。
つまり、鑑定評価に必要な情報、特に取引事例・賃貸事例等は個人情報の固まりであるが、不動産鑑定士同士の間では情報交換の重要性等から事例交換等は当り前のことであったからである。
事例収集がいかに大変で手間暇のかかるものかは、事例収集等を行なった者しか解らないであろう。
特に地方では、不動産業者等もおらず、売却希望物件がメディア等に掲載されることもないので、情報収集はまさに足で稼いでいくらという時代であった。
それ故に、情報の貴重さ、情報入手の苦労等が共感できたため、資格者同士お互い助け合って業務を実施してきたのである。
貴重な情報であるが故に、その取扱いは慎重であったし、相互信頼の絆が固かったからこそ取引事例等の個人情報の取扱いに特に神経質になることもなかたっと考えている。