コモディティ化する鑑定業務と特化型AIに駆逐される公的評価 ~ Vol.7
2024.01.18
VOL.07 コモディティ化と特化型AI

不動産鑑定士がニュープアになる、と鑑定雑感に投稿してからかなりの時が経過しているが、改めてこのことを実感する今日この頃である。

 ところで、公共セクターが発注する鑑定業務は大半が入札となったが、資格者としての責任が問われない算定業務は、人工単価や経費率が公表され、これに基づいて報酬の計算を行なうため、委託報酬のダンピングの話は聞いたことがない。

 これに対して、無限責任を問われる鑑定業務は、人工単価等の公表がないため、ダンピングが横行している。

 仄聞するところによれば、実績がなければ地価公示評価員になれないため、1件5万円でも無理して応札するケースもあるらしい。

 この価格は経費込みであるから、補償業務的に言えば、技師Cの人工単価にも満たないことになる。

書きそびれたが、前記の基準によれば、技師Cとは「上司の包括的指示のもとに一般的な定型業務を担当する。また、上司の指導のもとに高度な定型業務を担当する。」とされている。

これに従えば、不動産鑑定士は技師Cレベル以下と認識せざるを得ないことになる。

偉そうに先生、先生と仲間うちで呼び合っているが、社会一般から見れば、技師Cレベル以下であしらわれていることに気がつかないのである。

この先、不動産鑑定士の独自性を排除して、単に業務レベルの標準化を進める、つまりコモディティ化を進めると、価格競争が行き着くところまで行き、やがて鑑定業務は消滅の憂き目に遭うのかもしれない。

 しかしもっと問題なのは、コモディティ化が進み、内容に差が無くなるように業務の標準化が進むと、そこは特化型AIに取って代わられる可能性が高くなるということである。

特化型AIのうち、評価に特化したAIが開発されると、プログラムに沿って計算するのではなく、AI自らがネット空間に溢れるありとあらゆる評価に関する情報を収集・分析し、ディープランニングすることによって評価することが可能となるため、一個人の限られた時間・費用・能力では、太刀打ちできないことになる。

今の技術の進歩を考えると、後数年で評価に特化したAIが開発されるものと思われるが、そうなると、地価公示・固定資産税・相続税評価等の公的評価は特化型AIに置き換えられる可能性が高い。

評価業務の価格競争はAIに対する資本装備率の競争となり、個人資格業者は滅亡の危機にさらされるが、これに対する有効な処方箋を、残念ながら書くことができない。

駕籠かきが車社会になって消えたように、AIはこれまでの常識を全てヒックリ返すインパクトがあるのではと一人心配しているが、より便利に・より早く・より安く・より精度も高くなるとすれば、社会一般からみればこのような時代が来ることは、大歓迎ということであろうか。

 資格に胡座をかいている時代は、ソロソロ終わるのかもしれないと思っている。

 新年早々暗い話となったが、ご容赦いただくとして、一人一人が新時代に向き合って考えてもらえたら、と願うばかりである。

 いずれにしても、前例のある新しい時代はない、つまり、前例がないから新時代というのであるから、悲観することはないのかもしれない。
前進あるのみと考え、次世代の不動産鑑定士に希望を託し、年寄りの繰り言は終わることにする。

 

(2017年3月 Evaluation/「コモディティ化する鑑定業務と特化型AIに駆逐される公的評価」)

2024.01.18 10:31 | 固定リンク | 鑑定雑感
コモディティ化する鑑定業務と特化型AIに駆逐される公的評価 ~ Vol.6
2024.01.11
VOL.06 公共事業における専門職の人工単価と歩掛

 公共事業においては、ダンピング受注をさけるため、公共工事の歩掛を公表している。
 公表しているのは、国交省である。
 
ところで、地価公示も公共事業の一種と思われるが、どういう訳か地価公示の実施作業規程はあるものの、地価公示を実施するための公共歩掛りは公表されていない。

 その理由を考えると、地価公示は入札業務ではないということに尽きると思われる。

 それでは、地価公示以外の公的評価は、というと、国土法施行令第9条に基づく地価調査を除き、入札になっているものが多い(但し、地価調査についても形式的な入札を行なっている団体はあるようであるが)。

 とすれば、公共事業という性格がある以上、入札を実施するのであれば、業務の適正性を確保するためにも、他の公共事業のように評価業務に要する費用の積算基準となる人工単価及び歩掛りを公表する必要があるのではと考える。

 ちなみに、公共事業に係る補償関係では、土地評価業務の人工単価及び歩掛りが公表されている。

 これによれば、業務費の構成は次によるとしている。


業務費


土地評価業務については、次のように定められている。

 土地評価は、次の区分によって行うものとする。

  1)地域区分及び標準地選定業務

  2)標準地価格の算定業務

  3)各画地の評価算定業務

  4)残地補償算定業務

  ところで、補償業務における土地評価とは、取得等する土地の更地としての正常な取引価格を算定する業務をいい、不動産の鑑定評価に関する法律第2条で定める「不動産の鑑定評価」は含まないものとする、とされている。

 これを素直に読めば、公共セクターが更地のみの正常価格の判定を鑑定士以外の者に行わせる行為は、鑑定業法の枠外である宣言していることになる。

 つまり、鑑定業法は民民間の行為を規制しているのであって、発注者である公共セクターは、特別な法律の根拠がなくても鑑定業務ではないと宣言さえすれば、法の適用除外になる、ということらしい。

 実際、県有地の売却予定価格の査定を宅建業者に有償で依頼するケースが増えていることからも、このことがうかがわれる。

 話がそれてしまったので元に戻すと、土地評価業務については、作業内容毎に人工数が次のように定められている。





 これを基にすると、標準地の正常価格を算定する業務の費用は、主任技師0.81人×49,900円+技師B1.68人×36,600円+技師C1.68人×29,900円= 152,139円となる。

 これに直接経費(材料費・旅費交通費)、その他原価(間接原価=事務職員の人件費・福利厚生費・水道光熱費等)、一般管理費(役員報酬・従業員給与手当・退職金・法定福利費・事務用品費・通信交通費・広告宣伝費・交際費・地代家賃・租税公課・保険料等を含む)を加算することとなっている。

 ちなみに、その他原価は直接人件費(人工費用)×α/(1-α)、一般管理費等は業務原価×β/(1-β)で、αは業務原価に占めるその他原価割合、βは業務価格に占める割合とされ、いずれも35%としている。

 これによれば、標準地1ヶ所の評価報酬は152,139円+81,921円(152,139円×0.35/1-0.35)+126,032円((152,139円+81,921円)×0.35/1-0.35)≒360,000円となる。

 尚、この計算上直接経費を含めていないので、これを含めると400,000円前後にはなるものと思われる。

 単純に比較はできないとしても、用対連による更地の鑑定報酬 1,000万円(評価額)まで145,000円と比較すると、更地の正常価格を算定(?)する報酬としてのあまりの格差に、愕然とする他はない。

 まして、鑑定評価に当たっては鑑定士には無限責任を負わされるが、補償業務における更地評価業務には資格者責任は無いのであるから、その格差には金額以上に大きな開きを感じるのである。



※注:設計業務等技術者の職種区分は、以下の7段階に区分されている。

   ①主任技術者
   ②理事・技師長
   ③主任技師
   ④技師A
   ⑤技師B
   ⑥技師C
   ⑦技術員

 尚、技師C以は下から2番目のランクであるが、資格も経験も無い発注担当者から指導される不動産鑑定士は、最下位ランクの技術員レベルとしかいえないのが厳しい現実である。


2024.01.11 09:20 | 固定リンク | 鑑定雑感
コモディティ化する鑑定業務と特化型AIに駆逐される公的評価 ~ Vol.5
2023.12.21
VOL.05 地価公示評価員にあらずんば不動産鑑定士にあらず

 昨今、地価公示評価員でなければ、固定資産税の標準宅地の鑑定評価をさせないとか、その他の公共セクター発注の鑑定評価を受注できないとかという話を良く耳にする。

 発注者の理屈を聞くと、どの鑑定士が良いのか選ぶことができないので、地価公示評価員であることを選択の基準としているとのことである。

 一方、地価公示評価員は年間5件程度の一般鑑定の経験を5年程積めばなれるようであるが、大都市では希望者が多いため、評価員になる道も相当難関のようである。

 その結果、奇妙なエリート意識が生じ、鑑定業界の頂点に君臨するのが地価公示評価員ということになるらしいが、実に困ったものである。

 いくら経験を積み、業界で実績を残しても、地価公示評価員を降りたらタダの鑑定士となり、地価公示ムラや他の公的評価からも排除される。

 また、地価公示評価員には、協会を維持運営するための大事な収入源となる事例カードの作成義務を負わされているため、尚のこと特別扱いされて当然という考え方が支配的となる。

 本来であれば、データの収集・整理は会員全員で取り組むべき課題であるのに、何故か地価公示評価員のみに責任が負わされている。

 法律上は、地価公示法という法律に基づいて収集・整理したデータは国家の財産であるのに、他の鑑定評価に必要だからという理由で協会に集め、一元管理するようになったが、税金を投入して集めたデータを、特定の団体に属する者だけがその利用を許されるとする根拠法は、一体どこにあるのであろうか。

 協会も地価公示評価員も地価公示に従属させられ、その結果としてデータの利用を許されているが、果たしてこのままで良いのであろうか。

 尚、データの収集・整理する現在のやり方は、新スキームと称し、法務省からの登記データを他の株式会社がアンケート調査の郵送・回収を行ない、それを地価公示評価員に割り振り、担当評価員に現場調査・資料調査の上事例カードの作成をさせているが、アンケートの郵送・回収をしている会社はコンピュータ上で機械的に整理しているだけである。

 後は地元の地価公示評価員が手間ヒマかけて調査整理しているが、前記の会社の担当者は、何の資格もなく、データの入力ミスがあっても責任を問われることもない。

 一体この業務の費用性と責任性のアンバランスな対応は、どこから来るのであろうか。
 個人的には理解できない。

 話が少し脇道にそれてしまったが、民間や公共用地買収等の鑑定業務が減少する一方、資格者は増え、受注競争が激化し、生活が不安定化したため、安定的なあてがいぶちの仕事で定年まで食べていけそうな地価公示に群がるのもむべなるかなと思わざるを得ない。

 うまく地価公示評価員になれたら他の公的評価にもありつけるとなれば、尚更のことである。

 不動産鑑定士は地価公示にパラサイトした生物となり、自立できない業種となったが、それ以外の業務についてもコモディティ化が進み、価格競争が尚一層激しくなってしまったのは、残念という他はない。
2023.12.21 09:30 | 固定リンク | 鑑定雑感

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