不動産のグローバル化と道内の取引事情 ~ Vol.3
2024.02.15
VOL.03 リゾート物件と市場の二極化

 ニセコエリアはリゾート地として大きく発展してきたが、それもここ20年弱のことである。
 それ以前は、長引く不況とスキー客の激減から東急も撤退していたが、ニセコの自然に目を付けたオーストラリアの若者が尻別川でラフティング事業を始めてから急速に認知度が上がり、これに目を付けた富裕層がリゾート物件の開発を始めて、今はカナダのウィスラー、スイスのサンモリッツと肩を並べる世界の三大スキー場の一つとなった。

 筆者は2008年9月のリーマンショック前にニセコヒラフ地区のホテル型分譲マンションの鑑定に行ったことがある。
 その時、すでに土地は坪40万円(札幌市中央区の住宅地より高かった)で、100㎡前後のマンションの価格が1.2億円と言われたが、地元感覚ではどう考えても4千万円以上は無理と言って、鑑定業務を謝絶したことがある。

 この土岐、適正価格というベンチマークは、地元にはないと思ったのである。
 
 北海道経済の水準をベンチマークにして世界を比較したところで、何の説得力もないことを痛感させられた。

 その後、シンガポール国籍の人からヒラフ地区で4.5億円の売り物件があるが、私の意見を聞きたいと言われたので、流石の私も4.5億円の物件なら一棟の建物と思って一棟全体ですかと訊いたら「君、何を言っているの?一部屋だよ」と言われ、ビックリしたことを思い出すのである。
 一部屋4.5億円の室内を見てみたいと思うが、貧乏人には叶わぬ夢と諦めている。

 もっとも、世界的にみれば、シンガポールやドバイでは一部屋10億円というのは普通にあるとのことから、億ションでビックリしている日本人は、全体として貧乏になったのではと思っている。

 尚、富良野市北の峰地区でも、ホテル型分譲マンションが一部屋2億円でタイのファンドに売却されたとの報道をみて、中国・シンガポールどころかタイにまで追い越されてしまうのかとガックリしたが、それも仕方のないことかもしれないと思っている。
2024.02.15 16:38 | 固定リンク | 鑑定雑感
不動産のグローバル化と道内の取引事情 ~ Vol.1・2
2024.02.08
VOL.01 はじめに

 本稿は、令和3年2月5日に開催された、全日本土地区画整理士会北海道支部及び北海道土地区画整理コンサルタント協会共催の土地区画整理研修会において講演させていただいた内容を要約したものです。

 一部講演内容と異なる箇所もあると思いますが、予めご容赦下さるようお願いいたします。



VOL.02 水資源条例制定の背景と道内における不動産の取引事情について

 筆者の知る限り、外国資本による土地取引は北海道水資源の保全に関する条例が施行された平成24年4月1日(2012年)よりかなり前からあったと記憶している。

 それが突如問題となったのは、外国資本に買収された山林の中に、自治体の水道の取水口があり、水源の確保に問題があると騒がれたからである。

 これが全国的にもセンセーショナルに報道されたため、外国資本による山林買収は、あたかも水資源を狙ったものであるかのように思われ、今日に至っている。

 本州で北海道の山林取引の話をすると、判で押したように「水資源か?」と訊かれるのには、閉口したものである。

 個人的には、住宅新報(平成22年6月1日号)に狙われる北海道の森と題して報告させていただいた。
 早いもので、あれから10年以上経過したが、昨今は外国資本による土地問題はリゾート地に移り、水資源を狙った山林取引の報道は皆無に等しい。

 個人的には、水資源を狙って山林取引をしたのではなく、単に広大な山林の中にたまたま取水口があったので問題になったにすぎないと思っている。

 筆者も、山林の処分について相談を受けることがあるが、外国資本の人に言わせると、規模の小さい山林(10ha前後)については、興味が無いとのことであった。

 実際、長万部の山林も一筆で約60ha程の規模であったが、それでも小さいと言われたので、仲介してくれた不動産会社にお願いして、隣接地の所有者を説得してもらい、併せて約120ha程の規模にして、やっと買ってもらったことがあった。

 大手の山林買収をしている会社の人にも聞いたことがあるが、やはり100ha以上のまとまった山林でなければ買収しないとのことであった。(もちろん価格は地元の価格水準ではあるが)

 ところで、条例制定後のまとまった山林の取引といえば、新聞でも報道されたが赤井川村明治地区の山林約270haが、シンガポール系の資本により買収された事例がある。

 山林以外では、中国系資本による平取町豊糠地区の農地を含めた集落が丸ごと買収された事例がある。

 面積は約123haとのことであるが、山林も含めるともっと規模が大きくなるらしいが、詳細は不明である。(「領土消失」角川新書参照)

 いずれの農地も買収してから5年以上経過しているものと思われるが、農地としての利用はなされていないようである。

 山林・農地以外では、札幌は言うに及ばず、千歳市・恵庭市・小樽市の宅地取引も相当数見られるが、報道されることはない。

 尚、筆者の田舎でも破産した運輸会社の事務所及びその敷地が中国資本に買収され、現在貿易系と思われる会社の看板が掲げられている。

 宅地・建物に関しては、自用・投資用に関わらず買収されているようであるが、その実態は不明である。
2024.02.08 16:09 | 固定リンク | 鑑定雑感
外国人に買収される北海道の不動産と人口減少の脅威 ~ Vol.2
2024.02.01
VOL.02 人口問題を考える

 平成30年3月に、人口問題研究所が2045年の全国市町村の人口予測を発表した。

 これによれば、全国で20%強の人口が減少するが、マクロ的に考えるとなかなかピンとこない。

 しかしこれを道内の市町村毎にみると、かなり深刻な様相を呈する。

 北海道の人口は、2015年に比較すると約26%の人口減少が予測されているが、全179市町村のうち、約85市町村の人口は半減する。

 減少率のトップは歌志内市で、約77%の減少、10位の利尻町で約66%の減少となっている。

札幌も例外ではなく、市全体では約8%の減少にとどまるが、何故か中央区だけは約10%の増加と予測されている。
 南区は約30%の減少と、市内でも人口格差が大きくなる。

浦河町は、残念ながら半減する市町村に入っており、減少率は約55%、推定人口は約5,900人とされている。

人口減少により、ありとあらゆるビジネスの再編・淘汰が進み、人口減少は加速する。

これに加えて高齢化が加速し、病気が心配になると、医療設備の充実した札幌へ転居する人も多くなる。
 介護を担う若い人もいないので、尚更のことである。

その結果、我が故郷は半分以上の地域が無居住化する。

 遠くにありて思う故郷も、絶滅の危機にさらされるかもしれない。

 札幌浦高会の皆様の智恵を期待したい。


(2020年2月 さっぽろ浦高会会報誌/「外国人に買収される北海道の不動産と人口減少の脅威」)

2024.02.01 14:18 | 固定リンク | 鑑定雑感
外国人に買収される北海道の不動産と人口減少の脅威 ~ Vol.1
2024.01.25
VOL.01 外国人に買われる不動産

 外国人、特に中国人が、水資源を確保する為との憶測もあって、北海道における山林の取引が話題になり、これを契機に水資源条例が施行された。

 最近は、外国人の土地買収で話題になるのはニセコ地区くらいで、外国人による不動産買収が話題になることは少ない。

 しかし、マスコミが報道しないだけで、北海道の土地は山林のみならず、宅地・建物も広範囲に買収されている。

 地方にとって、売るに売れない土地を買ってもらえるのなら、買手が誰であろうと大歓迎である。

 個人的には、札幌を中心とする大都市圏かニセコ地区の観光地だけであろうと思っていたら、そのようなことはなく、地方の農地や土地・建物も買収されているようである。

 まさか浦河まで中国人が不動産を買いに来るとは予想しなかったが、絵笛の入り口付近の国道沿いの土地・建物が買収された。

 日本には、外国人による土地買収を規制する法律がないので、世界的にみても魅力的な北海道の土地の買収は、今後も続くと思われる。

 個人的には、日高管内の土地を外国に紹介することもあるので、ある意味売国奴かもしれないが、買手がいない以上、それも仕方のないことと割り切らざるを得ない。

 人口が減少する北海道は、この先一体どうなるのでしょうか。


2024.01.25 14:13 | 固定リンク | 鑑定雑感
コモディティ化する鑑定業務と特化型AIに駆逐される公的評価 ~ Vol.7
2024.01.18
VOL.07 コモディティ化と特化型AI

不動産鑑定士がニュープアになる、と鑑定雑感に投稿してからかなりの時が経過しているが、改めてこのことを実感する今日この頃である。

 ところで、公共セクターが発注する鑑定業務は大半が入札となったが、資格者としての責任が問われない算定業務は、人工単価や経費率が公表され、これに基づいて報酬の計算を行なうため、委託報酬のダンピングの話は聞いたことがない。

 これに対して、無限責任を問われる鑑定業務は、人工単価等の公表がないため、ダンピングが横行している。

 仄聞するところによれば、実績がなければ地価公示評価員になれないため、1件5万円でも無理して応札するケースもあるらしい。

 この価格は経費込みであるから、補償業務的に言えば、技師Cの人工単価にも満たないことになる。

書きそびれたが、前記の基準によれば、技師Cとは「上司の包括的指示のもとに一般的な定型業務を担当する。また、上司の指導のもとに高度な定型業務を担当する。」とされている。

これに従えば、不動産鑑定士は技師Cレベル以下と認識せざるを得ないことになる。

偉そうに先生、先生と仲間うちで呼び合っているが、社会一般から見れば、技師Cレベル以下であしらわれていることに気がつかないのである。

この先、不動産鑑定士の独自性を排除して、単に業務レベルの標準化を進める、つまりコモディティ化を進めると、価格競争が行き着くところまで行き、やがて鑑定業務は消滅の憂き目に遭うのかもしれない。

 しかしもっと問題なのは、コモディティ化が進み、内容に差が無くなるように業務の標準化が進むと、そこは特化型AIに取って代わられる可能性が高くなるということである。

特化型AIのうち、評価に特化したAIが開発されると、プログラムに沿って計算するのではなく、AI自らがネット空間に溢れるありとあらゆる評価に関する情報を収集・分析し、ディープランニングすることによって評価することが可能となるため、一個人の限られた時間・費用・能力では、太刀打ちできないことになる。

今の技術の進歩を考えると、後数年で評価に特化したAIが開発されるものと思われるが、そうなると、地価公示・固定資産税・相続税評価等の公的評価は特化型AIに置き換えられる可能性が高い。

評価業務の価格競争はAIに対する資本装備率の競争となり、個人資格業者は滅亡の危機にさらされるが、これに対する有効な処方箋を、残念ながら書くことができない。

駕籠かきが車社会になって消えたように、AIはこれまでの常識を全てヒックリ返すインパクトがあるのではと一人心配しているが、より便利に・より早く・より安く・より精度も高くなるとすれば、社会一般からみればこのような時代が来ることは、大歓迎ということであろうか。

 資格に胡座をかいている時代は、ソロソロ終わるのかもしれないと思っている。

 新年早々暗い話となったが、ご容赦いただくとして、一人一人が新時代に向き合って考えてもらえたら、と願うばかりである。

 いずれにしても、前例のある新しい時代はない、つまり、前例がないから新時代というのであるから、悲観することはないのかもしれない。
前進あるのみと考え、次世代の不動産鑑定士に希望を託し、年寄りの繰り言は終わることにする。

 

(2017年3月 Evaluation/「コモディティ化する鑑定業務と特化型AIに駆逐される公的評価」)

2024.01.18 10:31 | 固定リンク | 鑑定雑感

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