稀少性の経済と過剰性の経済を考える ~ Vol.2
2022.08.18
VOL.02 市場経済の基本的命題


前記の「経済学の犯罪」(102ページ)によれば、市場経済の基本的命題は、次のとおりとしている。

自由な競争的市場こそは効率的な資源配分を実現し、可能な限り人々の物的幸福を増大することができる。そしてこの命題が成り立つための重要な前提のうち、特に重要な前提として次の三つを挙げている。

『1.人々は与えられた条件のもとで、できるだけ合理的に行動する。行動に必要な情報は可能な限り利用する。

2.経済活動の目的は人々の物的満足をできるだけ増大させることであり、この場合にモノ・サービスの生産・交換・消費という「実体経済」が経済の本質であり、「貨幣」はその補助的手段でしかない。

3.人々の欲望は無限であり、消費意欲は無限である。これに対して、物的生産の条件となる資源は有限である。したがって経済の問題とは、稀少資源をできるだけ効率的に配分するという点に求められる。

この三つの前提があって、前記の「自由な市場競争は効率的で望ましい」という結論が導かれる』

としている。

 これに対して佐伯教授は、同書でこの三つの前提は間違っていると指摘する。

 そしてこの三つの前提の意味を確認するためにとして、次の三つの前提を示している。

『A.人々は常に不確定な状況の中で将来へ向けた行動をしている。
したがって、本質的な意味で合理的な行動というものは定義しえない。

B.「貨幣」は人間の活動にとって補助的な手段ではない。
それは人の生活を支える独自の価値を持ったものであり、また時には貨幣そのものが人の欲望をかきたてる。

C.人間の欲望は社会のなかで他者との関係において作られる。
それはあらかじめ無限なのではない。
一方今日の経済は、技術革新のおかげで巨大な生産力を持っている。
もしも人間の欲望の「増加」が、生産力の増加に追いつかなければ、経済の問題とは「稀少性の解決」へ向けた問題ではなく「過剰性の処理」へ向けた問題となる。』

としている。


ところで、土地そのものは生産できないので、不動産の過剰性の問題はもっぱら需要側の問題となる。

 過剰性の問題は需要に影響を与える人口・税制・登記手続・行政サービスのあり方等の社会一般にかかわる問題でもあるので、市場経済では対応できない問題として我々の前に立ちはだかるのではと考える。
2022.08.18 09:31 | 固定リンク | 鑑定雑感

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