日本人の問題対処の問題 ― 問われる日本人の品格 ― ~ Vol.6
2023.11.16
VOL.06 日本人に本質的な問題解決能力はあるのか

 クールジャパンがもてはやされ、世界でも特有の文化を育んできた日本と思われるが、元をただせば朝鮮や中国からの文化・技術によって日本文化の基礎が作られたのは紛れもない事実である。

 聖徳太子以後、帰化人による技術移転等によって発展してきたが、その間も国内紛争が絶えたことはない。

 徳川の治世になって、やっと国内紛争がほとんど起きない時代となったが、それも300年で幕を閉じた。
 これは、徳川時代の政治システムが徐々に劣化したことも事実と思われるが、諸外国の干渉による、やむを得ない側面もあると考えられる。

 いずれにしても、文明国から見れば、辺境の地に自主独立した高度の文明国の存在に、大いに驚いたものと思われる。

 また、我々は先人のお陰で西洋人の植民地になることがなかったことを、大いに感謝すべきである。
 自国からみて後進国と考える、つまりキリスト教国以外の国は未開の国であるから、これらの国を侵略し、殺害・略奪することは、当時の西洋諸国のキリスト教的正義に適っていたのである。

 今も続いている中東の戦争は、ある意味キリスト教徒とイスラム教徒の価値観の衝突でもあるといえるのではないか。
 イスラム世界にキリスト教的価値観を押しつけようとしても上手くはいかないと思われ、また、歴史もそのことを証明している。

 グローバル化とは、ある意味キリスト教的価値観に基づく、武力を用いない経済侵略・経済的略奪とも言えるのではと考える。
 キリスト教の常識とイスラム教の常識と仏教の常識は一致しない。
 また、キリスト教世界の中でも、価値観は分かれている。
 それは、イスラム教世界でも、仏教世界でも同じである。
 問題に対する対応の仕方についても同様であると考える。
 何が問題かは、その国の文化・歴史・宗教により異なるのであるから、他国があれこれと口を差し挟むべきことではないように思われる。
 日本の問題は、日本人自身の手・思考によって解決されるべきものと考える。

 一方、日本独特の異文化に対する同化作用の強さから、日本人が江戸時代に培った武士社会を頂点とする価値観は、明治維新と敗戦により、悉く破壊され、キリスト教的価値観が広まったように感じられる。
 明治維新・敗戦を経験して、江戸時代の文化を否定しようとする一方、キリスト教的価値観が広まり(それが民主化というのなら西洋社会からみた優等生ということになるのかもしれないが)、問題への対応の仕方が複雑となってしまったような気がする。

 江戸時代なら、潔く首を差し出すか切腹によって責任を果たしたが、敗戦による民主化で、責任逃れや誤魔化しが横行し、衆を頼んで弱者を追いつめたり、権力の恣意的行使等は目に余るが、江戸時代のように権力を行使することの慎重さと責任の取り方は遠く追いやられ、権力者もその末端の者も、法に名を借りて自己に都合の良いように振る舞う姿は、見るに堪えない。

 これが民主主義というのならば、江戸時代のほうがまだ良かったのかもしれない。

 クールジャパンともてはやされている物事の大半は、江戸文化を継承したものが多いように見受けられる。日本人が長い歴史の中で培ってきた価値観を再認識し、日本人としての品格を取り戻すことができれば、あらゆる問題に毅然と対応し、権力に恋々とすることなく責任の所在を明らかにし、潔く身を処すということができるはずである。

 国家の品格とは、つまるところ人間の品格に他ならない。
 武士道精神を模範として日本人が自らその品格を取り戻した時、初めて本質的な問題解決能力を備えることができると確信する。

 問題解決能力とは、全人格をかけて対処する能力であり、決してマニュアル的に対応するものではないと考える。
 マニュアルは、過去事例に基づき作成されるため、予想外のことはそもそもマニュアルに書くことはできないので想定外となり、思考停止し、対応不能となる。

 歴史とは、ある意味想定外の出来事の連続であるから、想定外の事柄に対応できないのは、人間の根本精神が未熟ということでもある。
 知識偏重社会から脱皮できるような人間教育が望まれる。

 不動産は人間社会に不可欠なものであり、そのあり様も複雑多岐にわたる。

 不動産鑑定士は、このような不動産を評価する職責が与えられているが、マニュアル的に対応できることは少ない。

 不動産に対する価値観は多様かつ複雑であるからこそ、全人格的対応が求められている。
 日々の業務を通じ、何時の日か不動産鑑定士が日本人の品格を代表する代名詞となる日を望みたい。


(2017年6月 Evaluation掲載/「日本人の問題対処の問題―問われる日本人の品格」)

2023.11.16 09:28 | 固定リンク | 鑑定雑感

- CafeLog -