稀少性の経済と過剰性の経済を考える ~ Vol.3
2022.08.25
VOL.03 国土の長期展望に向けた検討の方向性について

平成22年の「国土の長期展望に向けた検討の方向性について」と題するレポートによれば、2050年には人が居住している地域のうち、約2割の地域で無居住化が進むとし、北海道では50%を超える地域が、次いで中国・四国の約25%の地域が無居住化するとしている。
仮に今の状態がそのまま続くとすると、2100年の人口は低位推計で約3770万人になると予測している。
尚、2100年の人口は、明治維新の頃の人口と同じとも言われている。

いずれにしても、2050年で2割の地域が無居住化するとの予測を前提とすれば、特別の事情がない限り、2100年には現在の約半分の地域が無居住化する可能性がある。

これまで、不動産も一般財と同じく市場に任せておけば大半の問題は解決すると考えてきたが、人口減少時代には需要は減少しても、増加することはない。

事実、地方ではタダでも要らないどころか、追金してもいらないと言われる。
 大都市圏では、2050年頃までは人口は増加するかもしれないので、ある意味市場経済は機能するかもしれないが、地方では機能しなくなる可能性が高い。

これまで、不動産の問題といえば、稀少性の問題であった。

 地方消滅の時代では、一極集中により限られた地域に人口が集中するため、相対的稀少性は高まり、価格は上昇する。
不動産の問題は大都市中心の問題で、その大半は価格の問題でもあったからこそ、地価の変動率がマスコミを賑わしたものと考える。

地価公示も、マスコミの動向に引き摺られ、価格よりも変動率を意識したため、抑制的にならざるを得なかったのではと思われる。

いずれにしても、これまでの不動産の問題は、稀少性の問題であったのは事実である。

しかし、これからは、空地・空家に代表されるように、過剰性の問題となる。

我々は、長らく稀少性の時代に生きてきたため、過剰性の問題に対する対応の仕方が分からない。

 所有者不明土地・空地・空家等の問題も、相続問題を除けば過剰性がもたらす問題と考えることができる。

 過剰性を解決する近道は人口対策であるが、残された時間は少なく、過剰性を解決する道は遠い。

 不動産鑑定士も、稀少性・有効需要・効用の三要素によってもたらされる経済価値を判定するのが仕事と考えているようであれば、これから本格化する稀少性も有効需要もない無居住化する地域(ゴーストタウン)の不動産には、手も足も出せないことになる。

ということは、不動産鑑定士という職業も過剰性の不動産の前には為す術も無く、その運命は風前の灯火ということになるのではと危惧している。

市場経済の呪縛から逃れることができなければ、前途は厳しいと言わざるを得ない。

ところで、佐伯教授は前書の中で、経済史家のカール・ポランニーの「市場経済」がうまくゆくためには、それを支える「社会」という土台が安定していなければならないと述べていることを紹介し、生産物と生産要素の区別が大事であり、この区別が大事なのは、生産要素が「市場経済」を支える土台となっているからとしている。

そして生産活動が安定的に継続するには、生産要素の安定的な供給がなければならないので、この土台には市場経済の論理を適用すべきではないと指摘している。

不動産は生産要素の一つであり、市場経済を支える土台となっているが、所有者不明土地・耕作放棄地・空家等の問題は、この土台が揺らいでいることの証ではないであろうか。

 市場経済の論理で土地問題を考えることの是非について、今一度検討することが必要ではないかと思わざるを得ない。

関係各位の叡智に期待したい。

 

(2018年8月 傍目八目掲載/「稀少性の経済と過剰性の経済を考える」)

2022.08.25 11:45 | 固定リンク | 鑑定雑感

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