不動産の鑑定評価に関する法律のどこを見ても、不動産鑑定士の調査権に関する規定はない。
なお、弁護士法第48条では、「日本弁護士連合会は、弁護士、弁護士法人及び弁護士会の指導、連絡及び監督に関する事務について、官公署その他に必要な調査を依頼することができる。」としているが、司法書士法をはじめとするその他の資格者法には、このような規定はない。
しかし、筆者の経験によれば、法律に直接の規定のあるなしに関わらず、一般的に資格者法に基づく資格者に対する役所の対応は、不動産鑑定士に対する対応と異なることが多い。役所にとって、不動産鑑定士は一般市民扱いである。不動産調査で役所に行っても、特別扱いされることはない。評価命令を持参していっても、民事執行法において評価人の調査権はライフラインと固定資産税関係に限られているため、これ以外は一般市民扱いである。
したがって、都市計画法による許認可、建築基準法関係、道路法その他の行政法規による個別具体的な調査は、個人情報保護法の拡大解釈もあって、極めて困難となっている。一般鑑定で所有者の委任状が手に入らない場合は、なお一層困難なものとなる。所有者・占有者との交渉ができない場合の鑑定評価は、調査の手抜きをしなければできないが、争いがある物件なら冷や汗ものである。つくづく因果な商売と思わざるを得ない。
◆不動産調査と役所の壁◆
不動産鑑定士に特別の調査権があるわけではないが、それ以外にも役所には高い壁がある。
たとえば、建築基準法第93条の2には、書類の閲覧規定があり、「特定行政庁は、確認その他の建築基準法令の規定による……報告に関する書類のうち、当該処分若しくは報告に係る建築物若しくは建築物の敷地の所有者、管理者若しくは占有者又は第三者の権利利益を不当に侵害するおそれがないものとして国土交通省令で定めるものについては国土交通省令で定めるところにより、閲覧の請求があった場合には、これを閲覧させなければならない。」としている。
しかし、実際の運用状況をみると、役所によって対応はバラバラである。
つまり、文字どおり見せるだけの役所あれば、建築計画概要書の写しを交付してくれる役所もある。さらに、情報公開条例で請求してくれれば、写しを交付するという所もある。
ところで、不動産の調査で、道路の調査は基本中の基本である。道路法第28条では、道路台帳(図面を含む)の整備を義務づけ、道路管理者は道路台帳の閲覧を求められた場合には、これを拒むことができないとしている。これについても、役所の対応はバラバラである。
国道・都道府県道については、閲覧・図面の写しの交付も含めて十分な対応がなされているようである。
しかし、これが市町村道となると、その対応は極端である。国道管理者と同様の対応をしている市町村もあれば、正確ではない、個人情報の記載があるとかいってチラッとしか見せてくれない市町村もある。
これ以外にも、不動産に関する行政法規の中に閲覧規定を置いている法令は多いが、その対応の有様は市町村の数だけあるのである。役所は税金で多種・多様な調査や図面を作成しているが、法令上その扱いがハッキリしないことを盾に見せようとしないが、近代民主主義国家における行政の対応として如何なものかと、一人嘆息している。
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