鑑定評価の世界は、稀に見るタラ・レバ(仮定条件)の世界である。筆者もコンマ以下(1mm以下)の精度・誤差の世界から、誤差概念のないタラ・レバの世界に入って早30年近くになろうとしている。この世界には、誤差概念も情報の確実性や評価手法の科学性に対する疑念も入り込む余地は少ない。鑑定世界を除くと、そこには常に第三者の批判(ときには批難となることも少なくない)が存在することから、独りよがりのタラ・レバにも限度がある。
しかし、訴訟鑑定を除くと、第三者からの批判がほとんどない鑑定世界では、タラ・レバに対する自己検証がなされることはほとんどない。というより、できないというのが本音である。鑑定世界に幸いというべきか、約30年も居座っているが、この間に進歩したのは、鑑定書という書類を作成する道具だけである。もっとも、カゴ・馬車の世界から車社会に大きく変貌したが、かといって人間が進歩したとも言えないのであるから、それもまたやむを得ないのであろう。
しかし、そうは言っても、鑑定評価が社会に対して一定の役割を果たしているのは紛れもない事実である。それ故に鑑定世界も原子力ムラの教訓を十分に受け止め、真に社会に役立つためにはどうすれば良いのか、タラ・レバの真実をも含めてトコトン考える必要があるのではないかと思っている。 |