役所調査に当たっては、対象物件の確認・確定に必要な書類の他、価格形成要因に関する調査も欠かせない。評価依頼が来たら、まずは法務局における調査である。今は、建物図面・分筆図を除いて、「法14条地図」と称される所謂公図の閲覧や出力がインターネットで出来るようになったので、随分楽になったものである。
最近不動産鑑定士になった人は知らないだろうが、昔は法務局で図面のコピーも出来なかったのである。当時の不動産登記法によれば、図面の閲覧はできるとしかされていないため、複写はできないということであった。当然、図面の写しの交付の請求もできなかったのである。したがって、対象不動産である土地・建物の図面は、トレース用紙(半透明の用紙)を重ね、定規を使ってトレースするしかなかったなかったのである。駆け出しの不動産鑑定士の最初の仕事は、実は法務局における図面のトレースであったのである。如何に早く・正確に・綺麗にトレース図面を作成することができるかが試されたのである(アァ懐かしい!!)。地価公示で取引事例を確認するため、それこそ朝から晩まで法務局で100枚単位の図面のトレースをしたことを思い出す。不器用な人は、図面のトレースに音を上げていたようである。
いずれにしても、この貴重な体験から、要領良くサッと、しかも手数料を払っていない他の土地の分筆図も、注意されないよう気を付けて素早くトレースすることができるようになったのである。特に、地方の法務局で調査する場合は、時間が限られるのでまさしく時間との勝負であった。
今は、法改正により、図面の写しの交付請求もできるようになったので、随分と楽になった反面、大量の図面が綴じられた簿冊から、地番順に綴じられているとはいえ、目的とする土地・建物の図面を素早く捜し出し、場合によってはその周辺も含めてトレースするという職人的な技を習得するというチャンスはなくなった。もっとも、若手の不動産鑑定士に言わせれば、車社会の現在、駕籠かきがどうしたのっていう程度の話にしかならないと思われる。
しかし、実は大量の分筆図・公図等を見るというのは、結構勉強になったのである。筆者もその経験があったので、技術屋でもないのに1,000haにも及ぶ開発地区の地番図を作成することができたと思っている。この地番図を作るために、2ヶ月ばかり法務局に通い、明治時代に作製された図面やら大正時代に作製された北海道独特の植民区画図等、実に色々な図面に出会ったのである。図面の精度や変遷や、登記簿との不突合、特に幽霊地、つまり登記はあるが地番図を照合しても図面上に特定できない土地や、脱落地といわれる地番の付されていない土地、分合筆図を集成すると形が変わる土地の存在等、実に貴重な体験をさせてもらった。そのお陰で図面の取り扱いにも慣れさせてもらったが、コピーにより簡単に図面が手に入るようになった現在、図面について深く考える機会が少なくなっているような気がする。
|