鑑定評価業務の法律的性質について ~ Vol.4
2024.11.21
VOL.04 弁護士業務と鑑定評価業務

 弁護士業務を入札にすべしという声は、寡聞にして知らない。

 これは、芸術家と同様に発注者が事前的にも事後的にも弁護士業務の内容をチェックすることができないからである。

 発注者にチェック能力があるのなら、弁護士は不要である。
 一般的に弁護士業務は請負ではなく委任と解されている。
 発注者ができるのは弁護士の人選のみで、委任行為の良し悪しを委託金額との関連で判断することはできない。

 したがって、発注者は弁護士が法令等に違反していない限り、全てを受け入れなければならないことになる。
 たとえ思わしくない結果に終ったとしても、請負契約のように瑕疵担保責任を追及することはできない。

 だがしかし、本当に弁護士業務は入札になじまないのであろうか。

 弁護士業務は、鑑定評価業務と異なり、依頼者に忠実であれば良く、時によっては黒でも灰色ないし白色と主張しなければならない。
 弁護士業務が社会正義に照らして客観的・公正・中立に行わなければならないのなら、犯罪者の弁護を引き受けることはないであろうし、裁判官も検察も不用ということになる。 

 他方、鑑定評価業務は、依頼者に忠実になることはできない。
 求められるのは社会的にみて客観的かつ公正・中立な立場における価値判断である。

 したがって、鑑定評価業務の内容は弁護士業務の内容よりはるかに委任に近い法的性質を有していると考えられる。

 弁護士業務の本質が委任で請負契約になじまないのなら、より客観的・公正・中立な立場での判断を求められる鑑定評価業務が請負契約になじむと考えるのは笑止である。

 鑑定評価業務が定性・定量的で、事前・事後のチェックが可能なら、単なる計算業務となる。
 鑑定評価は単なる計算業務ではない。

 評価者によって結果(鑑定評価額)は異なることもあるし、請負金額によって結果(鑑定評価額)の良し悪しを判断することもできない。
 資格があれば全て同じ結果が期待できるのなら、名医も名弁護士もいないことになる。

 資格は業務の最低限の資質を要求するものであり、ベストを満たしている訳ではない以上資格者によってバラツキが出るのはやむを得ないことである。

 いずれにしても、鑑定評価業務の本質は依頼者に代って客観的・公正・中立な立場で価値判断を行うものであり、限りなく委任に近い性質を有していることから、請負契約になじまないものと考えるものである。

(2006年11月/「鑑定評価業務の法律的性質について」)

2024.11.21 10:07 | 固定リンク | 鑑定雑感

- CafeLog -