ネットサーフィン鑑定 ~ 鑑定評価書作成業(?)の行方   Vol.3
2021.04.22
VOL.03 劣化する不動産鑑定士の調査能力 

 一般鑑定においては、対象不動産に関する資料等は依頼者が用意してくれることが多いので、後は現地で対象不動産を眺めて帰って来ることが多い(外観調査はその最たるものであるが)。

今は飛行機が発達しているので、見知らぬ都市に行っても日帰りが可能となった。

事実、東京・名古屋からだと札幌へ日帰りで鑑定実査する人もいる。

当然現地には数時間しかいられないが、それでも何とかなっているのが今の業界の実情である。

ご当地に長く居住していてもなかなか市場の動向は良く解らないでいるが、世の中には優秀な人が多く、全国どこでもチラッと見れば評価できるようである。

田舎モンの私には逆立ちしたってこのような真似はできない。

時代は遠くなってしまったのかと一人愚痴っている。

そんな日々の中、ネット情報で不動産の調査に関してトンデモない事例を見つけたので紹介する。

それは「憤懣本舗」というブログである。詳細はこのブログを見て欲しい。

ところで、このブログで紹介されていたのが、競売不動産を落札したものの、実際は国道の敷地で使えないということである。

この物件は神戸地裁管内の物件で、落札した人が裁判所を相手に裁判の申し立てをしたらしいが、判決では競売不動産はハッキリしないモノも売っているので買った人の責任ということで申し立ては受け入れてもらえなかったということである。

関西ではこの件についてテレビでも放送されたらしい。

かつて先輩から競売不動産の調査・評価は道路の調査に始まり道路の調査で終わると聞かされた。

したがって、この競売物件について執行官はともかく、評価人は一体何をやっていたのかと思わざるを得ないのである。

国道は、少なくとも市町村道よりキチンと管理されており、又国道の管理台帳図もその精度は高く、信頼性はある。

したがって、基本的な調査を行ってさえいれば、国道の敷地かどうかは直ちに判明したはずである。

それができなかったのは、法務局の図面を鵜呑みにし、かつ現地での照合作業も不十分であったとしか思えない。

個人的感想を言えば、対象物件の確定・確認においては、何をさて置いても道路台帳図の確認をするべきである。

しかし残念ながら一部の役所では、道路台帳図の写しを交付してもらえないのも事実である。

道路法という法律で道路台帳の整備や道路台帳図の作成を義務づけているが、その整備水準・精度・内容・閲覧対応等はバラバラであるから、調査の苦労も解らない訳ではないが、今回のケースは国道である。

筆者の経験では、少なくとも国道についてはキチンと対応してくれている。

それは北海道だけの話と言われればそれまでであるが。

道路法では、道路の区域を決定し、供用の開始を行う場合は必要事項を公示し、かつこれを表示した図面を一般の縦覧に供しなければならないとしている。

これによって道路の官民間の境界が判るのである。

ただ用地未処理のまま区域決定がされているのも事実であり、全国的にはこれら未処理の用地(今回競売になったケース)は相当数にのぼると聞いている。

いずれにしても、基本に忠実に調査していれば、国道敷地かどうかについて誤認することはまず無いと思われる。

今回、国道敷地を競売で売却したことは、評価人にも相当の注意義務違反があったと言わざるを得ない。

ところで、不動産鑑定士試験及び実地演習においては、調査能力を問われることもないし、訓練を受けることもない。

喩えは悪いかもしれないが、机上で水泳の勉強をしただけで、いきなりプールで泳ぐようなものである。

机上の勉強だけで泳げるのであれば、苦労はない。

理屈と実務は異なるのである。

新試験になってから、尚更この傾向が強くなってきたのは困った現象である。

理屈は高度化?したが、実地レベルについては問題山積である。
2021.04.22 11:09 | 固定リンク | 鑑定雑感

- CafeLog -