取引事例比較法を考える Vol.2
2020.10.15
VOL.02 地域の変化がないのに若干の時間が経過するだけで格差率は変化する 

 ある街の地価公示を例に取り異時点間の格差率の変化を見ると次のとおりである。

番  号H8H9H10H11H12
5-16,3505,0004,1002,9002,430
5-43,7302,9002,4701,8001,400
相対格差100:59100:58100:60100:62100:58


ちなみに、5-1・5-4の地域の状況は、H8とH12を比較しても特に変化が見られない。

少なくとも、街路条件・交通接近条件・行政的条件は変化がない。

つまり、これらは物理的状況と法律によるものであるから、公示地が地殻変動により移動するか法律が変わらない限り変わらない。

そうすると、この格差の変化は環境条件の変化しかないことになる。

さりとて、環境が変化したとも見えない。

少なくとも、1年間で格差が4%も拡大するとは思えない。

もし、仮に地価水準の格差が価格形成要因によって定性・定量的に決まるのなら、東京の1ヵ所の価格が決まれば全国津々浦々の価格が自動的に決まることになる。

しかし、実際には地域の事情により異なった動きとなっており、相対的価格差は刻々と変化している。

我々は、現在の地価水準は推定可能である。

しかし、要因があって価格が決まるという図式は前述のように成り立たないと思うのである。

わずか1年で外形上判別できない環境条件が4%変化するということは、価格形成要因があって価格が決まるのではなく、決定した価格ないし推定された価格相互の格差を説明するための道具であって、それ以上の意味はないのではないかと考えている。

我々は演繹的に推論しているのであって、帰納的に一般法則を導き出しているとはいえない。

なぜ角地加算は5%で4%ないし6%であってはいけないのか?
5%と判断した場合に4%ないし6%ではなく5%だという証明は、本人にもできない。

また、他の不動産鑑定士が5%ではないという立証もできない。

その結果、不動産鑑定士の数だけ判断があり、極論を言えば判定された正常価格は鑑定士の数だけ存在することになる。

より一層客観化する為には、それこそ「不動産鑑定士100人に聞きました」ということをしなければならないことになり、客観化の道は遠く険しい。
2020.10.15 09:45 | 固定リンク | 鑑定雑感

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