鑑定業界と相互不信社会 Vol.4
2020.06.11
VOL.04 地価公示と情報収集 

 前述したように、地価公示をもってしても地方市町村に対して異動通知の閲覧を当然の如く要求はできない。
 地価調査では尚更のことである。

 これまで固定資産税評価や上級官庁の要請等からシブシブ閲覧要求に応じてきたものの、真正面から異動通知閲覧の合法性を問われると、法律上の明確な根拠を示すことができないため、有効な反論ができない。
 本来的には個人情報保護法制定時に我が業界も鑑定業法や公的評価に関連して法改正等の行動をすべきであったと思われるが、時既に遅しである。

 ところが、ここにきて不動産取引市場の透明化を図るため、取引情報の公開(今のところ不完全であるが)が閣議決定され、その中で地価公示の枠組みを使って情報収集を行うこととされた。
 一部の不動産鑑定士にとっては、極めて都合の良い方法であったとみえて、協会本部は総力を挙げてこれに取組むこととされ、大都市から試行されたが平成19年には全国に拡大されることとなった。

 新スキームと称するこの方法に、ことさらに異議を唱える心算はないが、拙速ではなかったかと思わざるを得ない。

 以下疑問点を思いつくままに上げてみる。


  イ.地価公示の枠組みを使うなら、何故法務省は登記情報を出せるのか。~地価公示法には規定がない

  ロ.取引情報は国が回収し、回収された情報を<・・・・・・・>地価公示評価員のみが(傍点筆者)整理の義務を負わされているが、評価員として委嘱されていない期間がある。

  ハ.標準地の鑑定評価の基準に関する省令では、標準地の鑑定評価に関係しない資料等(中古マンション・農地・純山林等)の収集は特に必要とされていない。

  ニ.標準地の鑑定評価にあたって収集した資料の最終的な帰属先が明確ではない。

  ホ.協会が評価員に対して資料の提出を命じる法的根拠が明確ではない。

  ヘ.新スキームにより収集した資料を協会が集約し、それを会員のみが独占的・排他的に閲覧利用できるという法的根拠はない。
    したがって、他の公益法人や大学・独立行政法人等から研究目的等で資料請求があった時に謝絶できるかどうかは解らない。

  ト.地価公示に関係のない資料も沢山整理させられるが、資料収集のための負担と受益の関係が整理されていない。

 等々である。


 公的評価等にとって、不動産鑑定士はなくてはならない存在となった訳であるから、我が業界はもっと根本的に考え、社会にとってより有用な(不動産鑑定士だけのためではない)、そしてより的確な情報提供を担えるよう、関連する制度や法律の整備を広く社会に訴える必要性があるのではなかろうか。
2020.06.11 11:38 | 固定リンク | 鑑定雑感

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